語り実践する首長は、新たな地方自治を創る「昭和を忘れない国や都道府県」を変えなきゃ
ここ数年、自らの考え、政策を率直に語り、実践する市町村の首長に注目しています。時には率直すぎて物議を醸した発言がSNSを介して一気に拡散し、全国ネタになる場合もありますが、首相や都道府県知事の型通りの発言にうんざりしているので全然オッケーです。しかも、首長が政策を語る姿を見るのは選挙運動だけという住民が多く、他の市町村の出来事でも「その通りだなあ」「妙なことを言い始めた」と賛否を巡る多くの意見が広がり、自分が住む街を改めて見直すきっかけにもなります。大歓迎です。
交野市長 大阪万博の無料招待を断る
直近で通快無比だったのは、大阪府交野市の山本景市長です。大阪府が2025年大阪・関西万博に子どもを無料招待する事業に対し、交野市立の全小中学校が参加を希望しなかったことを明らかにし、「学校単位で行く必要はない」とバッサリ切り捨てました。吉村洋文府知事は府内在住の4歳から高校生・特別支援学校生の102万人を対象に学校単位で無料招待することを提案し、2024年5月末までに学校の意向を明らかにするよう期限を設けていました。
山本市長は不参加の理由について理路整然と説明します。「万博に反対しているつもりはない」と語る一方、学校単位による無料招待が非現実的であることを説明します。大阪府が万博会場にアクセスするバスは大阪府全体で10台で、交野市に回ってくる可能性は極めて低い。市や学校がバスを手配した場合、1台15万円かかり、1人当たりの負担は5000円程度に。市が負担すれば3000万円。地下鉄など鉄道利用は大人数で安全に移動するのが難しい。
記者会見では、大阪府から説明を求められたら、「市長が行くなと言っていたと言ってもらって何ら問題はない」と明言。大阪府は強制ではないとしているが、「できるだけ来場してくださいと促されている。(学校側から)行けないというのを言いづらいので、市長が責任を負った方が良いと思い、会見で表明した」と続けます。市長としての責務が伝わる腹が据わった発言に爽快感すら覚えます。
芦屋市長は抜擢人事で空気を変える
芦屋市の高島綾輔市長も注目株です。2023年5月に史上最年少26歳で就任した高島市長は灘中学校・高等学校卒、東京大学中退、ハーバード大学卒と続く学歴の持ち主。灘中・高の膝元である芦屋市では燦然と輝きますが、この1年間の市政は手堅い改革を実践しています。市民との対話集会を重ね、不登校など教育問題に取り組む一方、春の人事で40歳代の部長を起用し、前例踏襲になりがちな市政の空気を変えようとしています。
教育委員会では元さいたま市教育長を教育委員に登用する人事案を提出し、全国的な話題を巻き起こしました。市議会の同意を得られませんでしたが、1年後の2024年春には昨年夏に昇進したばかりの部長を教育長に抜擢しました。
高島市長は毎日新聞のインタビューで「若い人だから選んだというよりも、いかに市民のことを考え、前例や慣例にとらわれずに行動を起こせるかを大事にした。適材適所だ」と説明しています。今後についても「大きな方向性を示すのは私の仕事だが、形にする段階では対話を重ね、互いにリスペクトを持ってワンチームで進めていきたいし、そうしてきたつもりだ」と話しています。
玄海町長はあえて「火中の栗」を?
玄海町の脇山伸太郎町長は、あえて「火中の栗」を拾ったのでしょうか。
九州電力の玄海原子力発電所が立地する玄海町は、原発から出る「核のごみ」の処分地選定に向けた「文献調査」の受け入れを決めました。すでに北海道の2町村が受けれていますが、原発立地の市町村が文献調査を受け入れるの初めてです。文献調査を受け入れれば最大20億円の交付金が支払われますが、「交付金目的ではないということを皆さん知っていただければありがたいと思っております。日本のどこかに最終処分場の適地が見つかるための呼び水となったらありがたいと思っています」と脇山町長は説明します。
玄海町は原発立地に伴う電源三法による多額の交付金を受け取っており、財政危機に陥っているわけではありません。原発は最終処分場が決まっていないため、「トイレなきマンション」と揶揄されています。玄海町はその地層から処分地として不適切とのデータもありますが、脇山町長は、「核のごみ」を排出している町としてあえて問題提起したそうです。原発建設や核燃料サイクルなどは住民を賛否で二分します。その深刻な事態を覚悟して、文献調査を受け入れた脇山町長の決断は、他の市町村にどう響き渡るのでしょうか。