軽EVは日本を救うか②N-BOXがEVに変身する日 小型車の呪縛から解かれるホンダ

 軽自動車で最も売れているクルマはホンダの「N-BOX」。2021年の軽新車販売で6年連続して1位に輝き、1000CC以上の登録車を含めても4年連続の1位。2022年も上期までは8万7000台近くを販売し、こちらも登録車を含めて1位。凄い。強さは盤石です。

N-BOXは日本で最も売れているクルマ

 N-BOXの強さを一言で表現すれば、他車を圧倒する存在感でしょう。どっしりした外観の構えから車内の広さは軽で最大級。事故防止を支援する安全システムが標準装備されています。エンジンや走りの性能はもちろん高い評価。軽規格の制約がありながら、1000CCクラスのクルマと遜色ない、あるいは上回るレベルを体現しています。価格はFFで150万円から。軽メーカーの主力車に比べれば、割高感は否めませんが、トヨタ自動車の小型車などと並べれば割安。売れるはずです。

 660CCの軽クラスに居ながら軽を超え、1000CC以上の小型車にも負けない。軽と登録車という2つの規格が併存する日本独特の自動車市場のなか、N-BOXは規格の壁を超えてその世界を広げています。ホンダの技術開発力には脱帽せざる得ません。

その強さがホンダ苦境の象徴にも

 唯一残念なのは、ホンダ自らホンダの居場所を狭くし、自社ブランドのクルマを駆逐していることでしょうか。N-BOXが快走すればするほど、ホンダのイメージがN-BOXに結集されます。ホンダは「レジェンド」「アコード」など世界の上級車市場で高い評価を集める名車を輩出していますが、日本国内での人気はさっぱり。とりわけレジェンドは優れた走行性能に世界でもトップクラスの自動運転技術を盛り込んだにもかかわらず、22年1月に生産が終了しています。軽と上級車は一台あたりの利益率が格段に違います。ホンダの四輪事業が儲からないはずです。

 トヨタや日産自動車より後発の自動車メーカーのホンダ。「シビック」に代表される小型車で人気を博し、自動車メーカーとしての地位を固めました。1980年代からは小型車以上の上級車にも力を入れ、「アコード」は米国でトップの評価を集め、ベストセラーカーに何度も選ばれます。日本国内でも米国の人気再現に努めますが、思いの強さとは裏腹に空回りします。

アコードなど上級車が売れない主因

 「ホンダといえば、小型車」。ホンダの強さと人気が足かせになっていたからです。ホンダが逃れようとしても逃れられない。この呪縛が「フィット」などの名車を生み出す一方、「レジェンド」「アコード」など上級車の輝きをかき消してしまいます。

 皮肉にもN-BOXのヒットは、ホンダが解決できない長年の悩みを逆手に取ったともいえます。軽の使い勝手をさらに高める一方、シビックなどで培った小型車開発のノウハウを注ぎ込み、「小型車」に仕立ててしまう。N-BOXの独り勝ちはホンダの強さと弱さを象徴しています。

 ホンダはこの呪縛を乗り越えることができるのでしょうか。答はやはりN-BOXにあります。電気自動車(EV)が普及し始めた今、世界の自動車市場は小型車と上級車の両極に分離し始めるはずです。その理由はEVの心臓部であるバッテリーにあります。蓄電池の性能、充電のインフラなどが走行性能や使い勝手を制約。価格もガソリン車に比べかなり割高。これらのハンディキャップがガソリン車と並ぶ水準に達するまでにはまだ時間が必要です。

EV時代がホンダの呪縛を強さに

 となれば、EVの需要は、ある程度の走行距離が見込めれば十分に利用できる小型車と、割高でも高級感を満足したい上級車の2方向へ分かれていきます。その典型例が軽EVの大ヒット。日産「サクラ」と三菱自動車「eKクロス」は予想以上の受注を集め、EVの需要動向を明確に示しました。バッテリーの走行距離が100キロ程度あれば、通勤や買い物など日常生活に不自由なく支え、戸建て住まいが多い地方の軽ユーザーなら充電の問題もクリアできる。

 軽EVの成功は、小型車市場のEV化が進行する過程で軽と登録車の壁を取り払います。理由は簡単です。軽規格のひとつ、エンジンの制約が消えるからです。軽と小型車の市場が一体化すれば、軽の開発力はEVでも世界標準に躍り出ることができます。

スズキ、ダイハツにも新しい世界市場が広がる

 ホンダはガソリン車を全廃してEVへ全面転換することを表明しています。すでにEVモデルを発表していますが、本当の競争力を体現するのはN-BOX。テスラも欧米の自動車メーカーもそう簡単には追いつけないでしょう。もちろん、スズキやダイハツ工業など軽トップメーカーにも、目の前に新たな世界市場が広がってきます。

 N-BOXが軽EVとなって現れる日が待ち遠しいです。

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