本物の柳葉魚と焼燗

賃金はなぜ上がらないのか 日本の資本主義は清貧か貧困か 変革への欲望は欲しい

 日本の経営者は欲望を外に出さないのが良い経営者と思われがちです。かつての日産自動車のカルロス・ゴーンさん、ソフトバンクの孫正義さんらは別格です。孫さんのお金を創造しようとする「欲望」には心から敬服します。皮肉ではありません。

 日本全体に値上げに対する意識の抵抗力の弱さは、社員やその家族が所属している企業の成長の弱さを肌感覚で知っていることを意味しているように思えます。例えば日清オイリオは4月1日から食用油を1キログラムあたり40円以上値上げします。2021年に連続して4度も値上げしていますが、大豆などの原材料費の上昇に追いつかないと説明しています。食用油はレストラン、家庭など幅広い食材と調理に使用されます。相次ぐ値上げは多くの加工品の値上げにつながります。

 日清オイリオグループは経営計画で値上げによる利益の確保を盛り込んでいるはずです。赤字覚悟の値上げはありえません。値上げそのものは短期的に家庭でも企業でも大打撃ですが、企業が利益を計上してその分配先として賃上げする流れがしっかりと保持されているなら、日本経済の値上げに対する抵抗力は上がるはずです。机上の空論のように思えるかもしれませんが、生きている経済はこの繰り返しが続き、この繰り返しの継続に成功できた会社が生き残っているのです。残念なことに食用油の値上げから明るいニュースは聞こえてきません。

 ところが、日本では清貧を良しとする美風があります。資本主義は欲望だと書いていながら、個人的には身の丈を合った生活をするのが一番心地よいと考えている人間です。日常生活は値上げを飲み込むようにして暮らせば、大丈夫だと考える多数派の一人と自認します。国民の多くがそう考えると政治家も思っているから、国会でも年金生活者に5000円を支給するという政策提案が議論されているのでしょう。5000円でこの値上げを乗り切れるのかと首を傾げたら、わけがわからなくなりそうです。日本の資本主義は欲望を体現するという資本主義の原則が機能しなくなっているのかもしれません。

欲望のマグマが残っているのか

 最近聞かなくなりましたが、新しい資本主義のあり方についてはどこかで議論されているはずです。「資本主義は欲望を土台に立っているが、日本には清貧の美風があるのだ」。もし、こんな議論のまとまりで日本の新しい資本主義が表現されたら、日本の未来は経済政策の貧困さを曝け出すだけです。でも、企業も国民ももっと欲望を前面に出して、値上げラッシュを上回る賃上げを継続できるように経済の活力を高めよう、となるのでしょうか。日本経済全体を賃上げ押しやる欲望を沸き立てるマグマがまだどこかに残っているはずです。そのマグマは変革の欲望も生み出すはずですから。

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