銀座の交差点

パリ市内を時速30キロ以下で走る、という衝撃 日本では声も出ないかも

フランスの首都、パリ市内のほぼ全域が速度制限が30キロになりました。これまでの経緯を全く知らなかったので新鮮な驚きです。パリ市としては大気汚染や騒音問題を軽減する一方、ウォーキングやサイクリング、公共交通機関の利用を促したい考えだそうです。速度制限はすでに約60%で導入されていましたが、シャンゼリゼなど主要幹線を除いてほぼ全域で30キロ制限となる事実は自動車の運転にとどまらず、通勤、生活など日常の根本を変える意識改革になるはずです。30キロ制限になれば都心の交通渋滞が激しくなり、むしろCO2や大気汚染を悪化させるとの声も出ているようですが、ここまでやらないといけない現況を多くの市民に訴える手段としてはアリなのか?という問題提起の政策として日本にいる私たちも考える必要があると思います。

欧州は地球温暖化対策を次々と打ち出しており、日本の対策と比べると”強烈”という文字が鮮明を思い浮かべます。まずはパリ市内の30キロ制限の概要をJETROの9月6日付けリポートを参考にまとめます。

まずパリ市は8月30日から車の制限速度を原則時速30キロとする規制を施行しました。主要幹線道路などは時速50キロ、自動車専用の環状道路は時速70キロと従来通り変わらないものの、制限速度を時速30キロに抑えます。規制はパリ市が2020年秋に実施したアンケート調査(回答5736人)で59%が時速30キロに下げることに賛成したそうです。パリ市内の約60%の道路はすでに時速30キロの速度制限が導入されていますが、パリ市は「新たな速度制限により、人身事故は25%、致命的な重大事故は40%低減され、身体的、肉体的ストレスの原因となる騒音は半減することが見込まれる」と説明しています

パリ市内には1000キロのサイクリング道路があり、将来は1400キロまで延びるそうです。現在のアンヌ・イダルゴ・パリ市長は次期大統領選挙への立候補に意欲を示していますから、政策実績を誇示したい思いも感じますが政策として何を目的に実施するのかをわかりやすい形にしたのは評価したいです。

もう一つ注目したいのはフランス政府が2月に閣議決定した「気候変動対策・レジリエンス強化法案」。叩き台を作成する過程が日本では考えれられません。抽選で選考された150人で構成する「気候変動市民評議会」がまとめた環境政策提言の一部を採用したのです。同評議会は2020年6月、2030年までに温室効果ガス排出量の40%を削減するための149の政策提言を公表していました。JETROのリポートによると、「製品・サービス消費による二酸化炭素(CO2)排出量の表示制度「CO2スコア」を2024年までに導入する」「化石燃料の利用に関わる広告の掲載を禁止する」「スーパーの量り売り販売の面積を2030年以降、全体の20%以上とする」など細部に渡ります。交通機関についても「列車でも2時間半以内で移動が可能な短距離区間での航空路線の運航を禁止する」「国内便全便に2024年から100%のカーボン・オフセット・プログラムの導入を義務付ける」「2024年末までに人口15万人を超える全ての都市に「低排出ゾーン(ZFE)」と呼ばれる交通制限区を導入する」などかなり厳しい内容です。

以上を比べるだけで、昨年から日本政府が提唱していたカーボンニュートラル戦略の違いが理解できると思います。日本のカーボンニュートラル戦略はいかにも経済産業省が作成しましたという成長と環境の両立を目指しており、どういう生活をするのかという落とし込みが不足しています。細かい点にまで政策として明示すると反発が起こることを恐れているわけですが、マクロ経済の議論と個人の生活はコインの裏表の関係であるにもかかわらず、一般の生活面での具体的な提言は必要です。スーパーや小売店のレジ袋を有料化するのは、何かスケープゴートを探して見つけたかのような施策として好ましくないです。

政治は理想と現実を共ににらみながら、実社会にどう落とし込むかが最も肝要だと考えます。カーボンニュートラルは、成長一本槍の資本主義的な経済成長路線で達成はできません。小手先で達成するのは難しいと思います。パリ市や仏政府の政策が適切かどうか、また政治的なアピールがかなり込められているとはいえ、国民に何をすればどう変わるのかを示す決断が日本には求められています。あっちとこっちの折衷案で進める日本の政策論議の進め方では世界に取り残されます。

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