ウクライナ侵攻が突きつけるエネルギー安全保障、手詰まりの日本、どうなるサハリン2
ロシアのチェルノブイル支配で原発の安全保障が改めて浮上
もう20年以上も前です。当時のクリントン米国大統領が核開発を停止しない北朝鮮を攻撃することを決意したといわれたことがありました。その時、自衛隊のある幹部が日本の原発に対するテロ攻撃を指摘しました。北朝鮮の工作員は早くから日本へ潜入しているから、すでに原発近接地にテロ攻撃の準備を終えているはず。しかも本国内のテロ攻撃だけでなく、海外からのミサイル攻撃は自衛隊の基地だけでなく原発にも照準を合わせる。国の安全保障上、どう対応するのか難しい問題の一つと明かしてくれました。
原油、LNGなどエネルギー全般についても懸念せざるを得ません。日本はロシアのサハリンで石油・LNG開発に深く関わっており、ロシア産の原油輸入は全体の8%を占め、LNGも10%程度を占めます。日本政府は石油備蓄に余裕があるうえ、LNGも3週間程度の在庫があると説明します。原油やLNGの輸送を少しでも想像すればわかりますが、不足したからといってどこからかすぐに手立てできるものではありませんし、手軽に輸送できるものでもありません。特にここ数年は中国などアジアを中心にしたエネルギー需要の増加で日本は原油のみならず、日本が先頭を切って開発し輸入してきたLNGでも”買い負け”しています。岸田首相はガソリン価格が高騰したら、石油元売り会社への助成金の上積みで価格上昇を抑制する考えを示していますが、ロシアのクリミア侵攻問題が短期的に解決するとは考えられませんので、政府の目先の施策で安心するわけにはいきません。
サハリン開発の努力が雲散霧消?
さらに中国の出方も大きく日本のエネルギー安全保障に影響を与えます。中国はロシアをさほど非難していません。ロシアが原油やLNG、穀物輸出などで売り先を失った場合は、これまで以上に買い増す公算が大きいはずです。ロシアの原油やLNGが日本へ向かわずに中国など他国へ輸出してしまったら、日本と英国シェルがロシアを巻き込んで長年、事実上主導して実現したサハリン開発の投資が雲散霧消に帰してしまいます。中東に大きく依存した日本の石油・LNGの調達先を分散するために、三井物産、三菱商事などが旧ソ連時代から無理難題を乗り越えてサハリン開発を進めてきたプロジェクトです。簡単にサハリン産輸入停止の結論は出せないでしょう。
ガソリン高騰の心配だけでは済まない、改めて長期的な視点を
日本は資源のない国です。だからこそ明治時代の富国強兵政策の下で海外に資源を求め、第二次大戦の敗北を経験し、戦後の復興に国民は全精力を注いできました。石炭、石油、LNGなどのエネルギー資源は結局、コストの問題もあって海外に頼るしかありませんでした。特に地球温暖化への対応で石炭火力はもう頼れません。資源のない日本に最も必要と期待した原子力発電は福島原発事故で立ち往生したままです。
ロシアのウクライナ侵攻は、日本が最も弱いエネルギー問題を改めて突きつけています。第二次大戦以降、最も大きな戦争案件に発展する可能性もあります。平和が戻るまでにどの程度時間があるのかどうかわかりません。残念ながら日本の国会ではガソリン高騰に対する助成金が討議されているだけで、心寒い思いをしました。遠い地域の戦争と眺めていたら、日本の最も脆弱な姿を世界にさらけ出すことになります。
国民生活を支えるエネルギーにどう向かい合うかをもっと討議する時です。