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自己変革できない小売業 未来を描くのは投資ファンドか? リアル店舗が消えるアンリアル

 そごう西武労働組合としては、その対抗措置として、ストライキ権行使に踏み切らざるを得ない状態にまで来ています。
このストライキ権行使という判断については、全員投票でも組合員の93%の賛成率を得ていること、すなわちそれだけ多くの組合員が株式譲渡後の労働条件に不安を抱えていることを意味しており、労働組合として妥当な判断であることは間違いありません。(中略)

 三越伊勢丹グループ労働組合は、そごう西武労働組合の行動を全面的に支持し、今後の組織行動をできる限り支援してまいります。

 三越伊勢丹グループの労働組合は、「そごう西武労働組合によるストライキ権行使に関する見解」として長文のメッセージを西武池袋本店でストライキを決行する直前、ホームページに掲載しました。同労組にとって、そごう西武のストライキは「対岸の火事」とは思えなかったはずです。そう遠からず訪れる「明日」かもしれません。

三越伊勢丹は絶好調だが

 三越伊勢丹の業績は絶好調です。2023年3月は売上高が4874億円(前期比16・5%増)、営業利益は296億円と前期比5倍も伸び、コロナ禍前の2018年期の292億円を上回りました。値引きや返品などを差し引かない総額売上高は1兆884億円(前期比19・3%増)と1兆円を超えました。

 絶好調のけん引車は伊勢丹新宿本店。なにしろ総額売上高は3276億円。3000億円を超えるのはバブル期の1991年以来ですから、その絶好調ぶりがわかります。しかも、三越伊勢丹全体の3分の1を占め、伊勢丹本店の貢献度の大きさには驚くばかりです。

 三越伊勢丹の強さはインバウンドによる外国観光客に頼らず、国内の顧客をしっかりと捉えたマーケティングの成果だそうです。一昔前なら、富裕層を中心にした外商部門がフル回転したと言われるのかもしれませんが、今はスマホのアプリやクレジットカードなどを活用してこれまで以上に伊勢丹マニアと関係強化したという説明になるのでしょうか。

地方の百貨店は閉店ラッシュ

 伊勢丹新宿本店の強烈な強さは、リスクも炙り出しています。地方店舗の苦戦です。新宿本店以外の店舗といった方が適切かもしれません。すでに2019年から伊勢丹相模原店(神奈川県相模原市)、伊勢丹府中店(東京都府中市)、新潟三越(新潟市)を閉店しています。新宿本店とは対照的に、閉鎖した3店は1996年度がピークで、その後の売り上げは4、5割程度も落ち込んでいました。今後はグループの店舗に閉店の流れが広がる可能性もあります。雇用を失うわけですから、労組が心配するのは当然です。

 そもそも百貨店という小売り業態はすでに賞味期限切れとなり、競合する専門店や量販店にお客を奪われるのが当たり前になっています。地方の名門百貨店がほとんど姿を消している現状を考えれば、三越伊勢丹、大丸、高島屋といった全国ブランドで店舗を構えていても、お客が戻って来ないことはわかるはずです。

セブン&アイ、ヨーカ堂をどうするのか

 そごう西武を売却したセブン&アイも、同じ苦境に直面しています。コンビニエンスストア「セブンイレブン」は相変わらずの強さを発揮していますが、大型スーパー「イトーヨーカー堂」は完全に重荷となっており、大株主の海外ファンドから切り離すよう求められています。たとえ切り離したとしても、セブン&アイの活路は大きく切り開けるのかといえば、そうではありません。社内抗争の結果、セブンイレブンの創業者、鈴木敏文さんを追放したものの、結局は鈴木さんが金融など小売り以外の収益源として設計したビジネスモデルに頼って稼いでいるのが実情です。新たなビジネスモデルを創出できるのでしょうか。

 そごう西武の売却問題でプロレスでいうヒール役を演じるヨドバシカメラも、無双の強さを誇っているわけではありません。伊勢丹新宿本店のそばで築き上げた量販店のビジネスモデル、つまり駅前に大型店舗で立地し、豊富な商品力と利益率を重視するす経営戦略を貫いているだけです。創業者の藤原昭和さんが自らの経営哲学を徹底できるのも、株式上場を選ばず他の株主の影響を気にしなくても良いからです。

ユニクロ、ニトリもいつの日か?

 「ユニクロ」のファストリティリング、ニトリなどを見てください。拡大一本槍の時は無敵でしたが、全国のあちこちに店舗が増えた結果、息切れするチェーン店を見かけます。近い将来、自らの業態が賞味期限切れに直面した時、自らの変革に成功できるのか。日本の小売業の力が改めて試されれます。もし失敗すれば、百貨店と同じ道を歩むでしょう。日本国内のしがらみに縛られない海外ファンドが仲介役を果たして、生き残りの手助けをするのでしょう。

経営窮地の時は海外ファンド頼みで良いの

 三越伊勢丹は伊勢丹新宿本店の強さにあぐらをかかず、新しい小売りの未来に向けて試行錯誤を重ねています。日本の個人消費は人口減少などで右肩上がりの成長を望めません。インバウンドによる外国観光客、ネットによる販売形態の多様化などの目の前の課題にどのような答を出すのか。小売りの店頭に立っている者なら、みんなわかっていることです。

 だからでしょうか、経営が窮地に陥ると、登場する海外ファンドが憎まれ役を演じるのはちょっと可哀想に思っています。

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