
ラピダスに8000億円の追加支援 北海道は半導体バブルの恩恵を享受しているか
経済産業省は最先端半導体の量産を目指すラピダスに追加で最大8025億円の支援をすると発表しました。累計の支援額は約1兆8000億円。工場を建設している北海道千歳市周辺は地価、家賃、飲み代などが上昇し、バブル経済が沸騰しています。農水産業、観光業が偏っている北海道経済にとって天から降ってきた幸運といえますが、家賃が高すぎて千歳市に住めない事態も。国際的なスキーリゾートとして高い人気を集めるニセコ、富良野でも地元住民が困惑する高騰が続いています。一時のバブルに終わらせずに息の長い地域発展にどう繋げるのか。半導体復権を担うラピダスは新たなミッションも背負っています。
千歳の地価上昇率は全国1〜3位を独占
ラピダスは日米が掲げる経済安全保障の一環として最先端の半導体量産を目指しており、4月から千歳の新工場で試作が始まります。2027年からの量産に向けて半導体製造装置など微細加工を実現する生産する管理システムを構築するため、5兆円の資金を費やします。現在は3兆円程度しかめどがついておらず、民間からの出資も求めていますが、まだ73億円。政府が最重要政策として推進しているだけに、資金不足は許されません。今回追加支援する8000億円超は新型コロナウイルス禍の中小企業支援に積んでいた基金の残金などを財源にするそうです。日本経済の大黒柱である中小企業よりラピダスは大事なのかとツッコミたくなりますが、それはまた他の原稿で。
ラピダスの半導体量産は新工場を建設すれば万全というわけではありません。世界最大の半導体メーカー、台湾・TSMCが熊本県で半導体工場を建設している場合も同じですが、周辺には工場に生産設備を納入する企業も長期的な支援を維持するために立地します。大量の技術者も必須です。実際、東京エレクトロン、オランダのASMLなど半導体関連37社が進出しています。
当然ながら、建設地の千歳市の地価や家賃は上昇します。国土交通省が発表した公示地価では、千歳市の商業地の上昇率が全国で1位、2位、3位を占めました。ラピダス進出に伴い、地元の平均給与を上回る高所得の移住者が増えるほか、半導体関連で地元に落ちるマネーが一気に増加すると期待しているからです。ホテルやマンション建設が相次いでおり、ラピダスが今後も工場規模を拡大すれば、この流れは変わらないでしょう。
千歳市の家賃7万台で隣の市へ
北海道新聞によると、新千歳空港で働く若い男性は緊急時にすぐに駆けつけるため、千歳市内でアパート探したところ1人住まいでも7万円台の家賃となり、千歳市に住むことを諦めたと伝えています。この男性は隣接する恵庭市に4万五千円のアパートに決めたそうですが、同じ時期に入社した同僚も8割は恵庭市を選んだそうです。ラピダスの建設で工事関係者や関連企業で働く従業員が加わり、アパートの空室は消え、家賃も高騰しているのが現状です。
北海道新聞は繁華街の様子も伝えています。千歳市の夜の繁盛ぶりについて「20代半ばの方でも普通に10数万円を使ってくださる。札幌でもなかなか見かけない光景だなと思います」とお店を経営するオーナーが語っていました。札幌市のススキノは全国でも有数の繁華街ですが、ススキノに引けを取らない金払いの良いお客がいるというのですから、まさにバブル経済時の勢いです。
千歳市議会でも拙速を心配する意見
2023年にラピダス進出が決定してからわずか2年。北海道自ら地域経済の未来を設計するには短すぎる時間です。世界の有力ホテルや不動産会社がリゾートを建設するニセコの事例をみても、倶知安町など地元自治体が地域振興計画を予め描いていましたが、その通りに進むわけがありません。ニセコでは人材不足などでリゾートでの時給が数千円を超え、地元企業や飲食店が従業員を採用できない事態も起こりました。本末転倒とまでは言いませんが、なにか奇妙な事態が起こっているのです。
千歳市でも一気に動き出した工場進出に対し、市議会では「もう少し議論してから進めてもいい」と拙速な地域開発に慎重な意見が出ています。
北海道は全国でも急速に人口減が進み、札幌市以外の市町村は新たな地域振興策を迫られています。ラピダスはじめインバウンド需要を見込んだ設備投資は、地域経済に確実にプラスです。しかし、まるでバブル経済を謳歌するかのような経済発展は、バブルが弾けたら悲惨な結末に向かいます。息の長い地域振興を誰が設計し、実践するのか。今、問い質す時です。