五輪は不要 札幌はもうSapporo、スポーツと暮らす次代のライフスタイルを世界へ

 札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)が2030年冬季五輪・パラリンピックの招致を断念しました。招致目標を34年以降に切り替えるようですが、これを機会に誘致を辞めたらどうでしょうか。札幌はじめ北海道は今や、冬に限らず四季を通じてスポーツと豊かな自然を楽しめる都市環境が高く評価され、世界から観光客が集まっています。しかも、札幌市は生活レベルも日本でトップクラス。賞味期限寸前の五輪にヒトとカネを投じるよりも、豊かな自然が生活と一体化した次代のライフスタイルを創造し、世界が羨むSapporoへ飛翔するチャンスです。

札幌は世界でも稀有な自然環境

 秋元克広市長と山下泰裕JOC会長が東京都内で会談し、山下氏が招致断念を提案、秋元氏が受け入れる形で先送りに合意したそうです。秋元市長は副市長時代から知っていますが、賢明な頭脳を持つ役人出身の政治家です。現在の札幌市の実力を冷静に考えたら、冬季五輪競争で勝てると自信を持っていたはず。

 なにしろ札幌市は人口200万人近い大都市にもかかわらず、街中や周辺に天然雪が降る素晴らしいスキー場をいくつも抱える世界でも珍しい好環境です。急きょ決まった東京五輪のマラソン・競歩はじめ各種の国際イベントを数多く経験しており、大会の開催能力にマイナス点はありません。しかし、東京五輪誘致や開催を巡る不祥事で追い風は逆風に転じ、札幌市民の支持も低下していました。

 もともと札幌市の冬季五輪誘致は、2014年9月に当時の上田文雄市長が2026年開催を目標に表明しました。現在の秋元市長は副市長でした。上田市長は記者会見で「札幌がここまで成長する最大の要因が1972年の冬季五輪だった」と説明し、喫緊の課題として浮上していた老朽化したインフラの更新に期待しました。

1972年の開催で都市基盤を整備

 確かに1972年に開催された札幌五輪は競技施設以外に交通ネットワークや各種施設が充実し、現在の都市基盤となっています。2014年当時、札幌市が公表した五輪開催の経済効果は全国で1兆497億円、北海道内で7737億円。道内では6万以上の雇用創出効果があると試算しています。ただ、札幌市周辺の会場では一部のスキー競技に必要な条件を満たさないため、富良野(富良野市)とニセコグランヒラフ(倶知安町)のスキー場を開催地に想定していました。

 しかし、札幌市を取り巻く環境は10年前と比べ、大きく変わりました。市内のあちこちで高層タワーマンションが建設され、駅周辺では大規模な再開発が進んでいます。買主は中国など海外からも舞い込んでいます。医療機関など生活を支える福祉社会施設は高く評価され、車で1時間も走れば原始的な自然を保つ山や海が待っています。幸運ならエゾリスと待ってくれていますし、運が悪ければヒグマと突然の鉢合わせも。市内中心地の大通公園ではビヤガーデンや雪まつりなど全国的に知られたイベントが開催されています。当然、アジア、欧米、オセアニアなど世界から大勢の観光客が集まっています。

すでに世界から高い評価を集める都市に

 札幌市だけじゃありません。倶知安などニセコ地域や富良野を見てください。ニセコは世界的な高級リゾートホテルが集まり、高額な別荘地の建設も続いています。土地代は全国トップクラスの二桁伸び上昇です。富良野も事情はほぼ同じです。五輪を通じて札幌市を世界にアピールしなくても、すでに札幌は「Sapporo」の域に突入しており、北海道は「HOKKAIDO」が高級、あるいは美味しいを象徴するブランドとして受け止められています。むしろ、地元では改めて海外からの過熱した投資やオーバーツーリズムに危機感を募らせる声が増えています。

 札幌の地元経済界では、五輪誘致を北海道新幹線への経済的な起爆剤と捉えている向きもあります。北海道新幹線は現在、函館で止まっていますが、札幌延伸に向けた工事が進んでいます。ただ、北海道新幹線の事業採算性は難しいと予想されています。経済界の期待感は理解できますが、五輪は一過性の経済効果です。短期間の特効薬に頼るよりも地道に乗客数を底上げする施策を積み重ねる発想に切り替えたらどうでしょうか。

 趣味のスキーで北海道各地を回っていると、海外の観光客から予想以上に高い評価を聞きます。「世界のリゾートで過ごしたが、ニセコほど良い雪や環境を経験したことがない」。ニセコのレストランで偶然、隣に座った年配のご夫婦がお世辞抜きに語っていました。欧米では地球温暖化で雪質が劣化しており、北海道で降るパウダースキーは世界でも貴重だと話します。

温暖化で貴重なパウダースノーが象徴

 きっと札幌市民や北海道民が思っているよりも、世界は心底、素晴らしいと感じているはずです。せっかくのチャンスです。これから札幌市や北海道に磨きをかけ、世界が羨ましがる都市を創造しませんか。再び五輪招致に向けて「なぜ日本で五輪か」を説明することにエネルギーを消耗するなんて、とってももったいない。

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