サランコットの丘から眺めるペワ湖

ポカラ・サランコットの丘へ、村上春樹の「羊をめぐる冒険」ナマステ③

さあ、サランコットの丘へ向かいます。ポカラを訪れた観光客なら、ほとんどの人は向かうので丘への道は多くの観光客が行き来します。サランコットの丘の頂上からの眺めは、やはり素晴らしかった。

空気がきれいなので、ペワ湖も街も周辺の山も透き通って見えます。ただ、自分も含め観光客が多い。箱根とまでは言いませんが、やはり有名観光地でした。ふとペワ湖の方面を見たら、降りてゆく道がありそうな気配を感じました。そうだ、降りて帰ろう。

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2009年に発表された「1Q84」を読んだ時はちょっとがっかりでした。二つの世界が織り込めながら進む物語のパターンが定形化してしまった飽きを覚えたのです。村上春樹さんの人気が沸騰していたこともあったのかもしれません。確か本屋さんの店頭に並ぶと飛ぶように売れていたはずです。ブームでした。

著者の考えを調べたこともありませんから全く個人的な思いを綴りますが、村上春樹の小説パターンにこだわりすぎて描かれるエピソードがいかにも創作している印象を強く受けました。私にとって村上春樹さんの私的経験を最も体現しているのが「ノルウェーの森」と感じています。

他の小説と文体が違いますし、出てくるエピソードや流れがとても自然です。「世界の終わり」「羊をめぐる冒険」などその他の小説はとても面白いですが、いかにも小説を書く努力をしている姿が浮かびます。

「ノルウェーの森」はふつふつと湧き出るように文章が生まれて書かれている印象です。そう思わせる小説家の力量かもしれません。「1Q84」はエピソードを含めわざとらしさを感じてしまって興醒めしたこともあります。

小説家は自分自身が体験しないことも文章化して読者に追体験させる技量を持っています。しかし、遊んでいない人が遊びの話を書いても、本当っぽくなりません。小説なのです。

「世界の終わり」などのあのぎこちない主人公は半分現実、半分仮想を足場に立って描かれているから小説として読んでドキドキし、ダイナミックな展開を楽しめます。羊男役を演じるトリックスターはその主人公を裏切るかのような言動で「今の自分」をより面白いものにしてくれます。

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サランコットの丘を眼下のペワ湖を目当てに下り始めました。予想に反して、道はしっかり整えられていました。もっとびっくりしたのは道中にいくつもの集落が点在していたのです。

こんな表現をするのも恥ずかしいのですが、まるでテレビのドキュメンタリーのような家並みと民族衣装を着た人々が山肌を耕した段々畑で働いていました。観光客がサランコットの丘から降りて集落を通り抜けることがあまりないせいか、目と目があった住民はさすがに驚きます。こちらも突然、茶の間にお邪魔したような罪悪感を覚えます。言葉が通じないので、顔の表情ですいませんと謝ります。

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