縄文の里の古い日用品店で外国依存の国を痛感

 大谷洋樹の岩手の風

 縄文の世界遺産がある岩手県北部の一戸町に行きました。穀物を選別するふるいを求めて、手に入らないような古い物を扱う地域の日用品店が目当てです。地元の人は「このあたりは何にもない所」と言います。でも、自然のものに手を加える仕事を大切にする心は縄文時代から今も息づいていると感じます。

「何もない所」にあるものを求めて

 店はIGRいわて銀河鉄道一戸駅から歩いてすぐの平孝商店。電話で確認して取り寄せた品物を受取りに行きました。ステンレス製です。昔のふるいの枠は木製の曲げわっぱで、熟練の職人の手作りでした。以前盛岡にある、同じような雑貨店で購入したのはそうしたふるいです。

 昔の木製の蒸し器もありました。サイズは二種類しかなく、ほかは手に入らないとのこと。作り手が高齢化したり、つくる所が廃業したりして手に入らない家庭用品はたくさんあります。

 蒸し器は羽釜に据えつけ、かまどや薪ストーブにのせて使います。ガスコンロの我が家では宝の持ち腐れです。どんどん生活様式が変化して希少なものが消えます。致し方ないとはいえさみしいもの。まあここまでは予想の範囲内でした。

ウクライナ、円安などで価格は大幅に上昇

 ところが、電話した時点のふるいのカタログ価格はまもなく大幅に上がるとのこと。ウクライナ戦争、円安、物流危機、人手不足・・・。何が主な要因なのかわからないくらい複合的に重なります。生活に身近な国産品も原料を外国に依存するため国際情勢が直撃します。

 ステンレス原料のニッケルは国際商品です。需要が増える電気自動車用の電池向けに価格が高騰しているようです。国産ほぼ100%の品ぞろえの努力も危うい基盤の上に成り立っています。脆弱な日本の有様を痛感しました。

 農産物がすぐに浮かびました。季節を問わず、外国のものでまかなえる食卓。国産といっても化学肥料の原料のリンやカリは全面的に外国に依存、しかも資源は枯渇しています。化学肥料に依存しない農業への転換が差し迫った課題です。牛の飼料もほぼ100%輸入です。食べ物は命にかかわるものなのに。

 「せめて食料品だけは自給したいですね」と店主と意見が一致しました。店主は地元の産物で町を盛り上げたいと町に提案しているそうです。

縄文人の知恵を受け継ぐ時

 町の御所野遺跡は世界遺産の北海道・北東北の縄文遺跡群のひとつです。腐りにくいクリ材の土屋根の竪穴建物があります。クリやトチノキ、クルミなど自然の恵みを生かす知恵がありました。店頭に「一戸は縄文時代に御所野を中心に森林の恵みを受けて多くの人々が暮らした」と張り紙がありました。現代人は今こそ縄文人の知恵を受け継ぐことだと感じます。

大谷 洋樹 ・・・プロフィール

日本経済新聞記者、生活トレンド誌編集などを経て盛岡支局長を最後に早期退職、盛岡市に暮らす。山と野良に出ながら自然と人の関係を取り戻すこと、地方の未来を考えながら現場を歩いている。著書に「山よよみがえれ」「山に生きる~受け継がれた食と農の記録」シリーズ。

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