アフリカ土産物語(3) ブルキナファソの露天バー「高潔な人たちの国」に乾杯できる日はいつ?

 サハラ砂漠の南に位置する内陸国ブルキナファソ、首都ワガドゥグはアフリカのカンヌと呼ばれる。アフリカ最大の映画祭「フェスパコ(FESPACO)」が隔年で開かれるからだ。その開幕を二日後に控えた2003年2月20日の夜、私は日本人獣医師のKさんと中心市街のエンクルマ通りに面した露天バー「タクシー・ブルース」に繰り出した。

アフリカ最大の映画祭「フェスパコ(FESPACO)」のポスター

政敵の暗殺、新聞への弾圧が話題に

 内戦や貧困、エイズなど日頃の重苦しい取材から解放された私はFlag(フラッグ)というビールの大瓶を空けながら焼き肉をほおばっていた。やがて現実的な話となり、Kさんに「この国で新聞はどんな存在ですか?」と尋ねた。Kさんはコンパオレ大統領政権(当時)の腐敗や政敵暗殺など法治国家にあるまじき出来事を記事で批判した地元紙のノルベール・ゾンゴ編集長が何者かに殺された事件に触れ、こう言った。「大統領は新聞をうとましく感じているでしょう」

 コンパオレは、清廉さをうたわれたサンカラ前大統領を暗殺して政権を握ったと噂されていた。サンカラはフランス語の「オートボルタ」という国名を現地語で「高潔な人たちの国」を意味する「ブルキナファソ」に変えた人物でもあった。話題は他の独裁国家にも及び、「国民の知る権利を奪うのが独裁政権の常套手段だ」と二人でため息をついた記憶がある。

 「フィガロ」を売り歩く16歳の少年

 店には新聞売りの少年が出入りしていた。折しも米英の対イラク攻撃が秒読みと言われ、世界中に反戦デモが広がっていた時期である。ブッシュ、シラクの米仏大統領を表紙にした日刊紙「フィガロ」を掲げた16歳の少年は「アメリカはイラクの豊富な石油をねたんでいる」と真顔で言った。すると周囲の客から「米国は自国の利益を優先している」「中東が戦火にまみれたら、アフリカの貧困に拍車がかかる」との声が上がった。しかし1カ月後の3月20日、米英は反戦を唱える国際世論を押し切る形でイラクの首都バグダッドを空爆する。

「米国は自国の利益を優先」「アフリカの貧困に拍車がかかる」との声も

  続いて店に現れたのはサハラ砂漠の遊牧民トゥアレグ族の行商人だった。「土産に買ってほしい」と、10枚のコースターを収めた仏塔のような形の革製品を取り出した。手作りの味わいが気に入り、20000セーファーフラン(約4000円)で買った。大切なアフリカ土産として持ち帰り、一度も使わず部屋に飾ったままだが、Kさんには冗談交じりに「アフリカ料理店を始めるなら、開店祝いに差し上げます」と話している。

 

4000円で購入した革製のコスーター

 そんな思い出のある「タクシー・ブルース」だが、驚いたことに2016年1月15日夜、この露天バーはじめ周辺の高級ホテル、カフェの客がアルカイダ系の武装グループに襲撃され、カナダ人ら約30人が死亡、70人余りが負傷する流血の惨事が起きた。

バーでは武装グループに襲撃される惨事も

  あの悪名高きコンパオレが2014年末に民衆の蜂起で失脚して以来、こうしたイスラム過激派によるテロが頻発しているという。その後も混迷は続き、2022年1月下旬には軍の一部がクーデターを起こし、首謀したダミバ中佐が大統領に就任。さらに軍事法廷は4月6日、サンカラ大統領暗殺に関与した罪でコンパオレに終身刑を宣告した。ワガドゥグの夜に平和が戻り、「高潔な人たち」が笑顔で乾杯できる日はいつになるのだろうか。(城島徹)

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時にはモノなき土産話もあります。

今世紀初頭の3年間、アフリカを特派員として飛び回った筆者が各地の土産にまつわる「こぼれ話」を綴ります。とはいえ紛争絡みの取材など、土産とは無縁の出張が多く、「モノなき土産話」も含まれますのでご容赦ください。(元新聞記者・城島徹)

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