アフリカ土産物語(6) 突きつけられた銃口 ジミー・クリフの歌声が・・・

 「1枚撮らせてくれないか」。内戦がくすぶり続ける西アフリカのコートジボワール。交戦地帯に近い検問所で銃を構える3人の兵士に私は声をかけた。紛争の最前線の空気を画像で日本の読者に伝えたいと思ったからだ。

コートジボワールの紛争最前線 麻薬で目が泳ぐ兵士も

 沿海部の最大都市アビジャンから北方300キロ余り離れた内陸の反政府勢力支配地域に借り上げタクシーで向かう途中だった。政府側だけでなく反政府勢力からも事前に取材許可証を入手していたが、実際のリスクは現場でしか判断できない。

  目が泳ぎ、ろれつの回らない兵士も見た。麻薬で酩酊して正気を失っているのだろう。異常にテンションの高い少年兵は特に危ない。突然激高して銃撃されてはかなわない。だが3人の兵士は眼差しに冷静な感情が宿っていたので「撮れる」と判断したのだ。

 そうして2003年3月1日、危険水域を瀬踏みするがごとく兵士の顔色を見極めながら21か所の検問を越え、反政府勢力の拠点ブアケの街に到着した。幹部に直撃インタビューを済ませたあと、欲が出て、以前取材した近くの国際農業試験場に立ち寄った。

内陸の村の暮らしは質素だ

 ところが、研究者が去って荒れた陸稲耕作地に足を踏み入れた途端、血相を変えて駆け付けた若い兵士らが私たちの背中に銃を突きつけ、わめきたてた。「誰の許可で入ったんだ!」

突然、背中に銃口を突きつけられる

 「こっちは取材証明証を持ってるぞ」と言いながら兵士の目を見ると、恐怖の色が浮かんでいる。明らかに発砲を怖がっているのだ。人を殺した体験がないのだろう。逆上させては危ない。抵抗をあきらめ小屋のようなところで身柄を拘束された。

取材許可証など関連書類

「ここでもし殺されたら」と想像した。日本で大騒ぎになり、家族や会社に取材陣が殺到し、政府が動くだろう。気が滅入ったが、何よりもつらかったのは現地で雇った助手を巻き込むことだった。子どもが生まれたばかりの新婚で、「もし彼が殺され、自分が生き残ったら耐えられない」。自分でも意外な感情が湧きあがった。

 やがて無線交信していた兵士は幹部の指示を受けたのか、「さっさとここを離れろ」と銃口を下ろした。拘束を解かれて安全地帯へ戻ると、私と助手は安堵から黙って手を握り合った。それまで我ながら神経が図太いと思っていたが、その瞬間、全身にシュワーというサイダーのような泡立ちが走るのを感じた。体は無意識に恐怖を閉じ込めていたのだ。

天啓か、ジミー・クリフが降りてきた

 さらになんというタイミングか、まるで天啓が降りてきたかのように、カーラジオからジャマイカのジミー・クリフが歌うゴスペル調の「遥かなる河」が流れてきた。

《「Many rivers to cross. But I can’t seem to find my way over(いくつもの河が僕の前に横たわる。でも僕には進むべき道が見つかりそうにない)」……》

 ジミー・クリフが歌う動画と音楽の再生はこちら;  https://www.youtube.com/watch?v=twf7LhQIBkQ

 黒人霊歌のように自由を得るために超えなければならない聖なる象徴としての「河」。我々も今まさに渡ってきたのだ。その力強い歌声が泡立つ体に染み入るのをいとおしく感じたのだった。(城島徹)

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時にはモノなき土産話もあります。

 今世紀初頭の3年間、アフリカを特派員として飛び回った筆者が各地の土産にまつわる「こぼれ話」を綴ります。とはいえ紛争絡みの取材など、土産とは無縁の出張が多く、「モノなき土産話」も含まれますのでご容赦ください。(元新聞記者・城島徹)

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