ニューヨークの草間弥生さんのパフォーマンス

阿佐ヶ谷の屋台から見た風景 (その2) 二子山親方が豪快におでんを食う

屋台を仕切るのは80歳代のご夫婦

屋台を仕切るのは80歳代のご夫婦。岐阜県出身だそうです。メインメニューは関西風のおでん。東京風の濃い出汁は好まない。だから出汁には自信を持っていました。そしてなによりも親父は酒と女が大好き。80歳を過ぎていましたが、よってくると「俺は今でも女を喜ばすことができる」と”豪語”します。20歳代の私はすごい!と驚くだけです。まだ女を喜ばした体験はありません。思い浮かぶのは悲しい思い出ばかりです。親父の奥さんはいつも和服姿で、屋台のそばにある水洗い用バケツでお皿やグラスを洗っています。酔って言い放つ豪語の数々は聞こえているはずですが、聞こえているのか聞こえていないのか、とにかく反応はゼロ。知らんぷり。いつもお客さんや親父の会話には決して交わらず親父の影のようにそばにいます。当時20歳前後の自分から見ても「男を立てる」とはこういう仕草かと教えられる奥さんでした。

二子山親方がおでんを豪快に食う

屋台の栃木屋は阿佐ヶ谷駅前の北口に広がるロータリーに毎夜出店していました。中央線というなんとなく濃い酔客が多い土地柄を反映して、私の目には刺激的な人ばかり。二子山部屋が阿佐ヶ谷にあったこともあり、二子山親方(初代若乃花)も顔を出すことがありました。ある日、二子山親方が現れたのですが、さすが大横綱。おでんが皿に盛り付けられるのを待たず、割り箸で目の前にある大きな四角い鍋から好きなおでんを取り出して食べて飲む。いやあ、豪快すぎて見ていて気持ちが良い。周りにいたお客さんも思わず息を飲みます。でも、心の底では一瞬、「へぇ〜、これ良いの」と思います。

しかし、屋台の親父は全然気にしません。むしろ大好きな若乃花が飲みに来てくれて、うれしそうにニコニコしています。さすが遊び慣れています。二子山親方はサクッと飲み食いすると、すぐにサッと帰ってしまいます。お金は払っていなかった気がします。でも屋台の親父はなにも言いません。

お客の一人が憤り始めました。「若乃花だからって無作法な飲み方はおかしい」とまくし立てます。親父は「いいんだよ」と取り合合いません。でもそのお客は止まらない。「自分が有名人だと思って、なんでも許されると思ってやっている。傲慢だ」と繰り返す。同席した3、4人のお客は「いいんじゃない、親父が良いって言っているんだから」と収めようとするが、止まらない。突然、あるお客が怒り始めた。「そんなに言うなら、どうして本人がいる時に言わないんだよ。だから新聞記者は好きじゃない」。

ある新聞社の記者の気質を学ぶ

私は2度目の「へぇ〜」。怒りのお客が去った後、彼は大手新聞社の記者だと知りました。屋台で毎晩飲んだくれるだけでその大手新聞社に入れるかどうかわからないのに、私はその新聞社に入るのはやめようと思ったのでした。誠に僭越至極とはこのことと、今でも思います。

関連記事一覧