「年中無休」足立美術館が教える地方創生の極意「開いてて良かった」常識破りの感動

 美術館や博物館はどうして月曜日が休館日なんだろう。時々、素朴な疑問が湧きます。なぜって、美術館や博物館を訪れて、ガックリするのは休館日とかち合った時だからです。

訪ねたら休館日は辛い経験のひとつ

 休館日や臨時休館それぞれ事情があるのでしょう。ただ地元に住んでいるならまだしも、観光で訪れた時は「じゃ明日にしよう」というわけにはなかなかいきません。美術館訪問が主目的なら開館日を調べて予定を組むのが常識と言われそうですが、観光、出張いずれにしても時間もお金もやり繰りして日程を組みます。美術館一点に絞るのはなかなか厳しいものです。

 先日、20年ぶりに岡山県倉敷市を訪ね、久しぶりにガックリを経験しました。20年前、重い空気に包まれていた倉敷市のなかで唯一、輝いていた美観地区と大原美術館がどう変わったのかを見たかったのです。なにしろ、当時は主要商店街のあちこちで閉店が続き、「シャッター商店街」の異名で全国に知られ、倉敷駅前のチボリ公園は入園者数の減少で経営不振に喘いでいました。園内に人影が見当たらず、夕方になると建物だけが影絵のように映し出されていました。

倉敷市で久しぶりに再現

 当然ですが、20年ぶりに倉敷市は一新。駅そばのチボリ公園の跡地は大きなショッピングモールに姿を変え、とても賑やか。シャッター商店街はかつての面影が残っていましたが、美観地区に近づくと街並み保存と整備が進んだせいか、かつて中国地方の経済中心地として繁栄したころを彷彿させる美しい商家が再び立ち並び、特産のデニム地など若者に人気を集める商品が店頭を飾っていました。

 美観地区も表現が適切かどうかですが、魅力が増量アップ。コロナ禍が収束して旅行支援キャンペーンが展開されていることもあって、若者層からシニア層まで幅広い観光客が押し寄せていました。

 当日は月曜日。大原美術館は休館日です。とても残念。でも、せっかく倉敷まで来たのだから、建物だけでも見ていこうと立ち寄りました。すると、正門の入り口が開いており、人の出入りがあります。思わず「ひょっとして」と思い、そばに立っていた美術館スタッフに訊ねたら「申し訳ないです、本日は休館日。貸し切りなので、見学者はいますが、入れません」と説明されました。

 しょうがないです。でも、正門から人が出入りするので、通りすがりの観光客も大原美術館をのぞきます。多くの人はせっかく倉敷に来たのだから、街の代名詞でもある大原美術館を見学したい気持ちなのでしょう。休館日を貸し切りに振り替えても、多くの観光客が事実上訪れているぐらいですから。

もったいないと思いませんか

 「もったいない」。この言葉がふと思いつきました。倉敷市には多くの観光客を集める魅力が詰まっています。ラーメンはうまいし、蒜山高原のおいしい特産品、世界で人気のデニム地など他の地域が羨むほどの観光の切り札を持っています。そのなかでもダイヤのエースは大原美術館。なぜ年中無休で開館できないのだろう。日本国内だけでなく海外からも訪ねてくる街です。偶然に入った観光客でもその魅力を知れば、再び倉敷市を訪れるリピーターになるかもしれないのに・・・

 あそこなら年中無休なはずだと思い、調べたらやはりそうでした。島根県安来市の足立美術館です。

和倉温泉の加賀屋を彷彿

 横山大観のコレクションや美しい庭園などで国内外から高い人気を集め、米国の日本庭園専門誌から19年連続の日本一に選ばれ、インバウンドの観光客にもよく知られています。安来市は山陰の松江市と米子市の間にあり、交通の便は良くありません。それでもコロナ禍前までは入館者数は60万人を超え、外国からも3万人以上が訪ねてきます。まるで旅館ランキングで日本一を取り続けた石川県和倉温泉の加賀屋のようです。

足立美術館の入館は閉館15分前で、駅から無料シャトル

 集客力の凄さは日本の美術館の常識を破る姿勢です。開館は原則、年中無休。駐車場は無料。入館時間は閉館15分前まで。山陰のJR安来駅に近づくと、車掌さんが「安来駅から足立美術館には無料のシャトルバスがあります」と車内放送します。松江に向かう観光客も、安来駅から無料バスがあるなら、次回は行こうと思うでしょう。

 日本の多くの美術館は月曜日など週一回の休館で、入館時間も閉館30分前。閉館30分前と15分前の違いは体験している人ならわかるはず。この15分の違いは大きいのです。日本一と呼ばれる庭園の手入れはもちろんですが、館内は小さなディズニーランドのようにきめ細かい気遣いが感じられます。足立美術館を訪れた観光客にはなんとしてでも満足して帰ってもらうとの姿勢が鮮明です。

本日は休館日では地方のハンデを乗り越えられない

 美術館や博物館は芸術や文化を伝える場と考えたら、足立美術館はまるでデパートのようだと勘違いする人がいるかもしれません。それほど”営業姿勢”が感じられます。しかし、東京や大阪など大都会にある施設と違い、地方の美術館は高い交通費と長い時間を費やして訪れてもらわなければいけないハンディキャップを抱えています。

 この高いハードルを乗り越えて訪れた観光客を「本日は休館日」といって帰す手はないのではないかと思います。もったいない。

 

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