柳家さん喬一門会 落語を久しぶりにライブで楽しみました。切れ味と至芸に最敬礼

 久しぶりに落語をライブで楽しみました。「柳家さん喬一門会」です。とっても良かったです。帰り道の足取りは、ウルトラマンが怪獣を倒した後、「シュワッチ」と叫んで宇宙へ翔んで帰る気分でした。

学生時代は末廣亭に通う

 大学生の頃、新宿の「末廣亭」に通い、三遊亭圓生、柳家小さん、林家三平らの至芸に酔っていました。圓生さんのしっとりした芸風が一番、自分の性に合っていたのですが、やはり三平さんの爆発力には魅せられました。高座に向かって歩いている最中から末廣亭に笑いガスが充満し始め、三平さんがおでこに拳を当て「こうやったら笑ってください」というだけで笑いがド〜ンと爆発する感じです。三平さんは何を喋らなくても、おでこに手をやるだけで笑いが止まりません。「これが芸なのか」と冷めた目で高座を見やるのですが、実際は笑いが止まらず横隔膜が痛くなるほど笑うとはこういうことかと痛感した瞬間でした。

 柳家さん喬さんの師匠である小さんさんは、正反対。丁寧な芸を積み重ね、知らない間に話の世界に一緒に入ってしまっている自分に気づきます。末廣亭の席料は学生には負担でしたが、才能と努力でそれぞれの芸を磨き、お客さんの心をしっかり掴み取る技術の素晴らしさは何ものにも代え難い価値を覚えました。

お目当ては喬太郎

 久しぶりに生の落語を聴きたい、いや見たいと考えたのは、柳家さん喬一門の喬太郎をじっくり味わいたいと思ったからです。若い頃からテレビで活躍していることもあって落語を見る機会が多く、勢いと艶があるうえ、お客さんの心を掴む感性に興味がありました。もちろん、師匠のさん喬の素晴らしい芸もお目当てですが、完成度の高さを満喫するよりは喬太郎がどう進化しているのかに強い興味が湧きました。

 余計な弁解と承知していますが、高校生の頃から落語が好きでテレビやラジオで楽しんでいるだけの人間です。現在は寄席や独演会に定期的に通うファンでもありません。トンチンカンなことを書いていると思っても、久しぶりに落語を楽しんだ人間はこう感じるのかと笑ってください。

 最近、NHKで古今亭志ん生の高座をデジタルリマスターして放送した番組を視聴しました。演じる場面の一部は何度も見ているのですが、お客さんをスイっと一息で飲み込む芸の力には毎回、目を見張ります。

 一門会の席上、柳家さん喬が「落語は目の前にいらっしゃるお客様との共同制作」と話していましたが、笑い、泣き、あるいはつまらないとどんどん表情を変えるお客さんの反応が落語家を支え、話し続ける力を伝えているのだと痛感します。

 柳家さん喬一門会を紹介するパンフレットはこう謳っていました。「当代随一の人気を誇る柳家一門会が、夏の落語特選を席巻します!高座はもちろん、師弟愛溢れるトークでも観客の心を掴みます。」

 売り文句に間違いはありませんでした。会場は市民ホールで、いわゆる「オオバコ」。寄席と違って高座と客席の距離は離れていますから、演じる表情や所作を楽しむにはちょっと辛かったのですが、同じ空気を吸っている一体感は十分に堪能できました。

話の筋や落ちがわかっていても、何度も笑える

 前座の小きちが「開口一番」として幕を開け、喬乃助、喬太郎と続き、休憩を入れて鼎談、さん喬の流れでしたが、前座、三番弟子、一番弟子、師匠それぞれの味わいが明快に現れ、「一門会って、これが妙味なんだ」と改めて痛感した次第です。

 「落語っておもしろいなあ」と思うのは、話の筋や落ちがわかっているのに同じ場面で笑ってしまうことです。期待通りの芸を見て感動するのか、それとも意外な挿話を入れてどう驚かしてくれるのか。次の流れを期待しながら、今日はどんな筋書きするのか、落語家とお客が互いに牽制し合う面もあるのでしょうね。

 やっぱり喬太郎はおもしろかった。お客さんの年齢層などを見ながら、落語の枕をどんどん膨らまし、枕が長すぎてもう布団を敷いてその枕で寝てしまうのかと思ったら、客席が十分に温まった時点に突然に演目の本編に入る。流暢に艶のある話芸を披露します。古典落語の継承者と言われる名手ですが、古典落語の内容はどうしても「今」と食い違う場面があります。「一番不得意なのが古典落語」と自虐的に話していましたが、若い人に高い人気を集める「ガチャガチャ」から「擬宝珠」へ引っ張り込む強引な話芸は喬太郎しかできないだろうなあ〜。

さすが、さん喬はうまい純米酒

 さん喬はやはり寄席で楽しみたかった。顔の表情、手の所作などちょっとした仕草が多くを語ってくれます。うっとり見惚れ、酔ってしまいます。オオバコではちょっと距離が遠かった。でも、秀逸、逸品とはさん喬のためにある言葉だと思いました。高座を降りるさん喬の背中を見ながら、「久しぶりにうまい純米酒を飲んだあ」と思ったものです。

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