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イオン 10年ぶりに総合スーパーが黒字 本業のモール事業再生を占う試金石

 イオンの総合スーパー事業が10年ぶりに黒字転換しました。イオンの経営は祖業が小売業でありながら、スーパーで稼ぐのはあまり得意じゃなく、不動産や金融、ドラッグストアなどヘルス&ウェルネスで大半の利益を稼ぎ出しています。ビジネスモデルは総合スーパーを核店舗に位置付けるものの、イオンモールで知られる専門店街を形成する総合的な商業集積で稼ぐものです。イオンは小売業ではなく不動産業と捉えるのが業界の常識となっています。こんな過去の常識に囚われすぎていたせいか、総合スーパーが10年ぶりに黒字転換した事実に驚きました。イオンに何が起こっているのでしょうか。

 10月11日に発表した2023年8月中間連結決算は、売上高にあたる営業収益が4兆7113億円(前年同期比5%増)、営業利益が1176億円(22・7%増)とともに過去最高を記録しました。事業別にみると、総合スーパーは2013年以来10年ぶりに中間決算で黒字転換しました。もっとも、売上高1兆6710億円を上げながらも、営業利益はわずか36億円。営業利益率は0・2%と非常に低い。スーパーは売上高1兆3538億円、営業利益164億円と健闘していますが、それでも営業利益率は1・2%。いずれも大きく改善していますが、息を吹き返したとは言い難い水準です。

本業は小売業より不動産業

 イオンはコロナ禍の収束に伴い来客数が回復したうえ、価格を抑えたイオンのプライベートブランド「トップバリュ」が大幅に増えたことを要因にあげています。ここ数年続く物価高や人件費の上昇は衣料品の在庫圧縮や省エネ投資などで吸収しており、イオンの吉田昭夫社長は「コロナ禍以降、小売りが安定して稼ぐ収益構造が続いている」と説明しています。

 注目したいのはプライベートブランドの「トップバリュ」の売れ行き。上半期で5000億円近く伸びており、通期で1兆円に達するかもしれないそうです。コロナ禍を乗り切ったとはいえ、消費者は商品と価格を比べたコストパフォーマンスにより厳しい視線を注いでいます。イオンが大手食品メーカーなどと取り組んできたトップバリュの商品力が着実に強化されている証です。

トップバリュは成否を占う試金石

 なぜ「トップバリュ」に焦点を合わせるのか。イオン全体の成長戦略を占う試金石と考えているからです。イオンはこれまで専門店を結集した「イオンモール」と呼ばれる大型商業施設を地方都市を中心に展開してきました。週末は家族でレジャーを兼ねてイオンモールを訪れ、ついでに買い物をする。駅前など好立地に出店するイトーヨーカ堂や西友などと全く違うスタイルをアピールし、「買い物は車で郊外へお出かけする」という社会現象を巻き起こしました。

 しかし、地方都市や郊外型のイオンモールはもう飽和状態に達しているほか、イオンモールと異なる専門店の集積施設も増えており、イオンモールにお客を引き寄せる誘引力は低下しています。イオンモールの力が衰えれば、本業ともいえる不動産事業も力が落ちてきます。もう一つの収益の柱であるドラッグストアも過剰な出店競争の結果、これまで以上に寡占化が進み、収益力が衰える可能性も出てきました。

 ここ10年、イオンのビジネスモデルの限界が指摘されてきました。新たな収益源として銀行業に進出し、経営全体の柱として育っていますが、セブン銀行の後塵を拝する位置から抜け出せそうもありません。冷静にイオン全体を眺めれば、自身のビジネスモデルは成熟期を迎え、新たな成長をどう切り拓くが経営課題でした。これだけ経営規模が大きいと変化はできるのかと不安視する向きもありました。成長戦略としてアジアなど海外進出に活路を求めていることも、従来のビジネスモデルの延長線上にとどまっているとしか見えません。結局は近い将来、国内外で足踏みする時期が迫っているのです。

イオンモールの再生へ

 トップバリュの成否は袋小路に迷い込みそうなイオンモールを再生する答の一つを教えてくれます。「お客様に何を提供して、幸福感を体験してもらえるのか」。祖業である小売業の原点回帰し、イオンがお客の目の前に差し出す価値を自ら問うきっかけになるはずです。原点回帰から生まれるブレイクスルーは総合スーパー、不動産業、ドラッグストア、銀行全ての事業に通じるはずです。

 10年ぶりに総合スーパーが黒字転換した事実は、イオンが目の前にある壁を突き崩すチャンスを掴んだと受け止めています。2桁台の利益率を上げる「ユニクロ」と比べると情けなくなるかもしれませんが、イオンが今中間期でわずかとはいえ36億円の営業利益を計上した事実は、新たな収益力の源を発見した予兆かもしれません。

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