EVはテスラが圧勝 エンジン世界一のトヨタは”圧敗” 独裁の差配が勝敗を分ける
どうしても「2001年宇宙の旅」の冒頭シーンと重なってしまいます。
サルの集団が突然、目の前に現れた黒いモノリスに驚きます。そのモノリスに触れたサルは動物の骨が武器になることを知り、地球を支配するヒトに進化します。数万年を経てヒトは地球温暖化を招き、自らの生存の危機に追い込まれ、その切り札として創造したのがEV。テスラはEVを支配しました。映画は黒いモノリスでしたが、テスラのモノリスは赤地に白いロゴ。
赤いモノリスはEV進化の象徴
自動車を何も知らない素人といわれたテスラ創業者のイーロン・マスクは自動車産業の常識に全く捉われずに、電気自動車(EV)の開発・生産に挑戦しました。失敗の連続です。将来の本格生産に備え、かつてトヨタ自動車とGMが合弁生産したカリフォルニア州フリーモントの工場を買収しましたが、生産ラインは止まったまま。「やっぱりテスラに車は作れない」との声が世界中に響き渡っていました。
しかし、テスラは多くの期待を裏切り、EVの世界販売の主導権を握っています。当初掲げた自動運転や走行性能にまだ不安が残りますが、世界のEV販売でトップを走り、最新の小型SUV「モデルY」は世界で最も売れているEVとなっています。テスラの独裁者イーロン・マスクが否定的な情報に全く左右されず決定と実行のスピードを優先した結果です。そして新車販売に続いて、EVのインフラである充電規格でも世界標準を獲得しそうです。
ホンダ、GMなどはテスラの充電規格に
ホンダ、GM、メルセデス・ベンツなど7社は、北米でEVの急速充電器を整備する合弁会社を設けましたが、充電器の規格として採用したのはテスラの規格「 NACS」と欧米が推進する「CCS(コンボ)」。CCSは欧米の自動車メーカーが日本の「CHAdeMO(チャデモ)」に対抗するためにば統一した規格ですから採用する理由はわかりますが、事実上北米の標準規格となるのはテスラです。
北米のEV市場で最も人気の高いテスラの背中を追うGMやフォードはともにテスラの規格を採用する方針を示しているからです。日産自動車もチャデモからテスラの規格に切り替える考えを表明しています。今回の合弁会社にはBMW、現代自動車、起亜自動車も参加しますから、北米のEV市場で販売する主要メーカーがテスラの規格で足並みを揃えます。CCSは形式上残りますが、どの程度利用されるでしょうか。
欧米規格のCCSは欧州でまだ継続の可能性がありますが、テスラは北欧を中心に高い人気を集めており、北米市場がテスラ規格に揃えたことで欧州もテスラが主流になるの可能性は十分にあります。テスラの名前はエジソンと並び称されたクロアチアの電気技師から由来していますが、その名の通りEVの規格で夢を実現します。
日本の規格はガラパゴス化
確実に言えるのは日本のチャデモは、日本市場だけの規格になることです。携帯電話でもみられた「ガラパゴス化」の再現です。その主因は、容易に想像できるはず。日本のEV進出の遅れです。日産や三菱自動車が世界でもいち早くEVに取り組み、ホンダが2040年に全面転換すると宣言していますが、世界一のエンジン車メーカーであるトヨタが足踏みしたのが足かせになりました。
トヨタを率いる豊田章男会長は社長時代から日本の自動車産業を守る自らの理念に従いエンジン車の継続を訴えています。世界の環境車として席巻したハイブリッド車も堅持し続けたい思惑もあります。これに対し、欧米の自動車メーカーはハイブリッド車に握られた環境車の世界標準の座を奪還するためEVへの全面転換を強引に押し通しました。ところが、日本と欧米の自動車メーカーがEVで角付き合わせている間を飛び越えて、テスラがあっという間に自社規格を世界標準として普及させてしまいました。
独裁者の差配が勝敗を分ける
トヨタはあと数年後にはEVで巻き返すと多くの機会で表明しています。しかし、EVの普及スピードを考えてください。あと数年後は、EV市場で10年ぐらいの時間軸に感じます。「時すでに遅し」でしょう。充電規格チャデモの二の舞を演じるのでしょうか。
素人と揶揄されながらも、目の前の多くの障害を吹き飛ばして猛烈な突っ走るイーロン・マスク。世界一の自動車メーカーでありながら、クルマ屋を自任するトヨタの豊田章男。二人の独裁者はそれぞれの経営哲学に従いEV時代に挑んでいますが、その独裁経営の差配が欧米とのEV競争で日本が取り残される結果を招いたのは事実です。