中国BYD、EVでテスラ肉薄 自動車「時はカネなり」基幹産業は期間産業に
中国のBVDがEVで世界トップの米テスラに肉薄しています。2024年の販売台数は前年比41%増の425万台。プラグインハイブリッド車とEVの2車種しか生産しておらず、EVだけで176万台。2023年のEVは160万台ですから10%増。テスラは前年実績の180万台から179万台へ1万台減少。BYDとテスラの差はわずか3万台。2025年はテスラを軽く追い抜くでしょうか。
BYDがテスラに1万台差
テスラとBYDは、自動車産業が技術集積の基幹産業から「技術と時間をカネで買う」期間産業へ変容したことを実証しています。「素人に自動車の開発・生産はできない」と嘲笑されながらも、テスラの創業者イーロン・マスク氏は巨額マネーを元手に自動車産業の常識をぶち破る開発手法でEV世界一の座に駆け上りました。生命に直結するため、自動車で最も大事と言われた事故や故障が繰り返されても、開発スピードを緩めるどころか突っ走る。日本ではとても通用しない非常識でしたが、結局は世界一の座に。これがEVの常識になってしまったのでしょう。
BYDはテスラをはるかに上回るスピードです。バッテリーを軸に創業した1995年から8年後の2003年に自動車へ進出しました。奇しくもテスラが創業した時と同じ年です。テスラが試行錯誤しながら敷いた軌跡があるとはいえ、BYDは2020年以降、爆発的な急拡大ぶりを見せつけます。それは驚異というよりは脅威ですね。
販売実績をみてください。プラグインハイブリッド車とEVを合算した数字は2020年以前には50万台未満でしたが、2021年は約 73万台、2022年は187万台に。2年間で3倍超も伸びています。その後のスピードは予想をはるかに上回り、2023年は302万台、2024年は425万台。2020年からわずか4年間で8倍以上も膨らみました。
4年間でホンダ1社分を増産?
BYDの販売数字は、過去と比べると異なる場合もあってその正確性に疑問がありますが、とにかく脅威的に増加しているとみせつけたいようです。ホームページには6大陸、30ヶ所を超える工場を展開していると説明しています。単純計算でみても、生産台数を400万台近く増産しています。ホンダの年間販売台数が400万台超ですから、ホンダ1社分の生産体制を一気に上乗せしたことになります。
凄いというか、ため息が出るというか、ちょっと信じられません。工場を紹介している動画を拝見しましたが、金型、塗装、組み立てなどで産業ロボットが主役となって自動化が進んでいるのは事実です。繰り返しになりますが、自動車は生命に関わる消費財ですから、たくさん生産すればそれでOKというものではありません。まして大量生産しても、販売できず在庫として積み上がれば経営は傾きます。
そこにはアダム・スミスも想像できない「神の手」があるのでしょう。そのひとつが中国政府です。国内市場でEV購入に補助金を出して欧米、日本の自動車メーカーを事実上締め出す一方、EVの基幹部品は需要よりも供給計画を優先して大量生産できるよう支援します。このコスト競争力に欧米や日本が太刀打ちできるわけがありません。ニデックをみてください。中国製EVを最大顧客として期待して駆動系の開発・生産注力したものの、赤字を垂れ流す窮地に追い込まれているのですから。コスト管理にうるさいニデックでさえ勝負の土俵に上がれないのです。
日本も時間軸を変える蛮勇を
中国政府の「神の手」は国家資本主義という歪な産業育成策を思い出させますが、むしろ自動車産業の開発・生産が半導体などと同じようにスピード優先に進めなければ生き残れない時代に突入したことを教えてくれます。テスラは自身の巨額資金を使って突っ走っていましたが、イーロン・マスク氏がトランプ政権に入閣したことで米政府支援を引き出すのは確実です。東南アジアでもタイやベトナムで中国製顔負けのEVが相次いで誕生しています。
日本でもEVを巡るニュースが飛び交っています。ホンダと日産自動車が経営統合へ向けて進んでいるほか、トヨタ自動車は中国・上海に工場を建設する計画を明らかにしています。いずれも2、3年後を目標に掲げていますが、このスピード感で良いのでしょうか。テスラやBYDに続き、シャオミーなど新興組も話題になっています。中国政府の後ろ盾に関する是非はありますが、日本もEV開発の時間軸を変える蛮勇が求められています。EV勝ち残りに向けた締切時間は迫っているのです。