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BMW、昔、身売りを断られてもトヨタと燃料電池で深い仲に、きっとEVでも? 

 BMWとトヨタ自動車は気合うんでしょうね。共に創業家が経営を支配し、孤高を好む企業体質が共鳴し合っているようです。欧州車がようやく日本車を認知し始めた1980年代、BMWはトヨタに支援を求め、その後はトヨタも助けを求め、いつの間にか持ちつ持たれつの関係に。今後、待ち構えているEV(電気自動車)時代を睨むと、「BMWとトヨタ」は予想外に良い組み合わせかもしれません。

燃料電池車はトヨタが先行

 今度は、水素を使った燃料電池車(FCV)の提携拡充です。世界の自動車産業はエンジンが排出するCO2が地球温暖化の主因との批判をかわすため、EV、燃料電池車など脱炭素型のモビリティへのシフトを急いでおり、とりわけ燃料電池車は水素を燃焼させて駆動力を生み出しますから、排出するのは水素と酸素が化学反応した後の水だけ。水素は無尽蔵に生産できるので、産油国の思惑や紛争に惑わされる心配もなくなります。

 1990年代から日本車メーカーがハイブリッド車と共に開発で先行しており、トヨタはハイブリッド車同様、燃料電池車の実用化でも先駆です。2014年に「ミライ」を量産型モビリティとして世界で初めて発売し、23年には高級乗用車「クラウン」にも設定しました。

 難点はコスト高。爆発しやすい水素を安全に車載できる設計が必要ですし、ガソリンスタンド同様に水素を補充できる社会インフラが欠かせません。トヨタは多くの関連特許を保有しており、水素の普及を目的に無償開放しています。さすがです。それでもほとんど普及していない現状をみれば、いかに燃料電池車のコスト高、インフラ整備が大きな壁になっているのかがわかります。

BMWとトヨタはもう10年以上の仲

 BMWとトヨタの提携は10年以上も前の2011年12月、環境技術を軸に合意し、まずはリチウムイオン電池技術の共同研究などを開始しました。また、トヨタは欧州で人気だったディーゼルエンジンを確保するため、BMWから供給を受けています。まさに「持ちつ持たれつ」、互いに助け合う関係です。その後も燃料電池車の技術を加え、提携関係は深化し続けています。

 狙いはもちろん、量産効果によるコストダウン。燃料電池車はトヨタでさえ2023年に販売した台数が4000台。まだ実験の域を出ていない数字です。BMWはすでに実証レベルの燃料電池車を開発していますが、本格販売に向けて2024年9月からトヨタから水素タンクや水素を使って発電する燃料電池といった基幹部品の提供を受けます。

 トヨタは欧州の水素ステーション整備も支援する方針だそうです。23年時点でまだ265ヶ所しかないそうですから、全く足りません。燃料電池車でドライブに出かけても、水素ステーションを常に意識して遠出するしかありません。今後、両社によるインラフ整備計画が具体化するのではないでしょうか。

1980年代にトヨタへ身売りの話も

 BMWとトヨタの関係は、環境技術を軸に良好に進んでいるように見えますが、最初の出会いはBMWの身売り話でした。1980年代半ばの出来事です。当時のBMWは欧州高級車を代表するブランドを確立し、その直列6気筒が生み出す走りは多くのドライバーを魅了しました。ハンドルを握り、エンジンを聴きながら体感する走りは絹の肌触りに例えられ、「シルキーシックス」と呼ばれました。

 ところがブランドの象徴が弱みに反転します。スムースで気持ちがいいエンジンの代名詞だった直6は、V型6気筒の登場で”時代遅れ”に。大型の6気筒エンジンをよりコンパクトに収容できるため、V型が新車の主流になってきたのです。BMWは直6に誇りを持っていますから、V型への移行に乗り遅れてしまいます。

 経営の実権を握る創業家のクヴァント一族は北米やアジアで昇龍の勢いを見せていたトヨタにある商社を介して身売り話を持ちかけました。トヨタはじめ日本車は北米で貿易摩擦を起こすほど販売シェアを高めていましたが、ブランドや高級感を嗜好する欧州市場ではさっぱ売れません。BMWを手に入れれば、トヨタは一気に欧州市場で地位を高めることができる。トヨタにとっても「美味しい話」と読んだのです。

 しかし、トヨタの反応は真逆でした。名門のBMWを買収したら、欧州メーカーのみならず消費者、政府などが反発するのは必至です。米国との貿易摩擦に苦しんでいる最中に欧州で新たな摩擦を起こすわけにはいかないと判断したのでした。

 そんな身売り話の経緯があっただけに、BMWとトヨタの提携はもう無いのだろうと勘違いしていました。2000年に入ってハイブリッド車の技術供与などをきっかけに環境技術を軸にどんどん「深い仲」になっていきます。車作りの発想が似ているのでしょう。豊田章男会長や佐藤恒治社長が自らを「くるま屋」と連呼している姿をみると、使い勝手そっちのけで走りとデザインに熱中するBMWの開発思想と重なります。

EVで「もっと深い仲」に?

 BMWとトヨタの提携は今後、どこまで深化するのでしょうか。燃料電池車の普及にはまだ時間がかかります。その前にEVで新たな協業が生まれるのではないかと期待しています。BMWはEVのモデル化で先行しており、出遅れているトヨタに比べ一歩も二歩も進んでいます。EVの駆動系、ボディー設計、バッテリーなど基幹部品のコストダウンなどトヨタが欲しい情報と経験を豊富に持っています。

 ハイブリッド車で沸いているトヨタですが、EVへハンドルを切らざるを得ない日が近づいています。未体験ゾーンに飛び込むトヨタにとってBMWは信頼できるパートナーになるはずです。燃料電池車の提携拡充は、EV反抗をにらんだ準備体操ではないでしょうか。

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