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バフェット氏が総合商社を買い増し 日本の没落する製造業は眼中になし

 米国の投資家、ウォーレン・バフェット氏が日本の総合商社の株式を買い増しするそうです。2020年夏ごろから広まった総合商社5社の株式買い増し情報は、コロナ禍で沈滞していた日本の株式市場に元気を与え、上昇基調へ戻しました。現在、日経平均4万円を下回る水準で足踏みする株式市場を再び刺激するのかどうか。寂しいのは日本経済を支えてきた自動車、電機、機械など製造企業の名前が取り沙汰されないことです。以前から国際競争力を失った製造業の現状を肌身にひしひしと感じていますが、今すぐバフェット氏が飛びつく銘柄は思いつきません。「仕方がない!」と製造業の没落を嘆くしかないのでしょうか。

再び日本の株式市場に浮揚力を与えるか

 バークシャー・ハサウェイは株主に対し「日本の5大商社と上限を適度に緩めることで合意した」と公表しました。三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅の5社が対象で、2019年から株式を購入しています。1年前の2024年2月には5社それぞれの発行済み株式に占める保有比率が約9%に達したと発表しています。今後、5社の株式保有比率は当初上限としていた9・9%を上回るのでしょう。

 三菱商事、三井物産、伊藤忠など総合商社はバフェット氏の期待通り、好業績を維持しています。かつて「インスタントラーメンからロケットまで」といわれた事業内容は今も健在。農水産物、衣料、エネルギーと多岐に渡り、それぞれで好不況があっても相殺できる事業ポートフォリオが組まれており、安定した収益を維持するエンジンとなっています。とりわけ、三菱商事、三井物産は石油・ガス、石炭、鉄鉱石など資源投資を継続していたため、世界情勢の緊張の高まりを反映した資源高の恩恵を受けて1兆円を超える純利益を計上しています。

三井物産は豪鉄鉱石に巨額投資

 直近は円安の進行で石油・ガスなどの有力物件の買収が滞っているとの情報も伝わっていましたが、三井物産が8000億円を投じてオーストラリアの鉄鉱石の権益40%を取得すると発表、資源投資への意欲は落ちていません

 もっとも、バフェット氏の関心が製造業に向けられていないのはとても残念。元々、「自分自身が理解できる企業、業種に投資する」と明言し、その実例としてコカコーラ株への投資が知られています。ただ、製造業に興味がないわけでないようです。2008年に中国のBYDが進める電気自動車(EV)に注目し、2億3000万ドルを投資しました。当時はバッテリーメーカーで、EV事業はまだ初期の段階。正直、人間よりもバッテリーを乗せて移動する車と見紛うレベルでした。

中国BYDには投資したが・・

 やはりバフェット氏は慧眼の持ち主でした。BYDは中国政府のEV推進政策の後押しを受けて急成長し、2025年には米テスラを追い抜いて世界トップのEVメーカーに躍進する勢いをみせています。ところが、バフェット氏はBYDが急成長のカーブを描き始めた2022年に保有株を売却。保有株の価値は80億ドル程度まで膨らんだといわれていますから、単純計算すると77億ドルはキャピタルゲインを手にしています。

 現在の日本の製造業のなかでBYDに相当する急成長株はあるのでしょうか。自動車はトヨタ自動車が安定していますが、今後の成長をどこまで期待できるか。第2グループのホンダや日産自動車は説明は不要でしょう。電機はどうか。ソニーグループは高収益企業に復活したとはいえ、爆発的な成長は期待できません。最も将来をできる半導体やコンピューター、人工知能など情報技術は欧米、台湾などアジア勢の後塵を拝する立場まで落ちています。

 ディスコやキーエンスなどは独創的な経営手法で高く評価されているものの、個人投資家ならまだしも投資会社が手を出すほど魅力的とは思えません。世界を圧倒したファナックなどのロボット、工作機械はまだ元気ですが、こちらもオーラを失ってきました。

 日本の製造業は今でも世界をリードする素晴らしい技術を持っています。精緻な加工技術、アイデアを結集して新しい製品、市場を創造してきた実績を忘れるわけにはいきません。残念ながら、素晴らしい技術を使って大胆に挑戦することを忘れているだけだと思っています。勿体無い。バフェット氏は、この日本の製造業が抱える課題を見抜いているのです。このままでは、世界の株式市場で取り残された感が漂う東証の中で買い増そうと意欲を刺激されるのは、やはり総合商社しかなさそうです。

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