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カリスマ続けるのもつらい 永守さんもニデックも神通力消え、打ち上げ花火ばかり

 「株価を上げる人」「空飛ぶクルマの部品」。株主総会前に飛び交う文言や情報を見て、よっぽど自信を失ったのだろうなあと痛感していました。ニデックの永守重信さんです。先日開催した株主総会の発言を改めて読むと、カリスマ経営者も会社もオーラの輝きを失い、焦りすら感じます。

自分の後継は「株価を上げる人」

 ニデック(旧日本電産)の永守会長兼最高経営責任者(CEO)は2023年6月20日、定時株主総会で自分自身の後継者の条件として「株価を上げられる」を強調し、「株価を上げてくれる人が一番よい。変人でも業績を良くする人でないといけない」と続けました。

 この10年間、永守さんの後継者問題は燻り続けています。社外から多くの候補者をスカウトして、この人物が最適と披露しながらも、いずれも創業者・永守さんの期待に応えられず「こんな株価じゃだめだ」と罵倒され、わずか数年で去っていく光景を何度見たことか。現在は、後継候補5人を副社長に据え、24年4月には5人のうちから選ぶと公言しています。

自身は取締役グループ代表に

 ところが、その「後継」そのものが本当の後継かどうか怪しくなりました。永守さんは会長兼CEOを退任し代表権も返上した後、「取締役グループ代表」になるそうです。その狙いについて、経営環境の変化を警鐘する「炭鉱のカナリア」の役割を担うそうで、CEOの椅子を譲っても3代12年間は自分自身が経営に関与するそうです。会社の実権を手放すつもりは全く無いと社内外に宣言したの同じです。そうなると、「CEO」は単なる事務職ですか?

 そういえば過去にこんな事例があります。世界的なプラントメーカーの日揮。中興の祖と呼ばれる重久吉弘さんは社長・会長を退いた後、相談役としてグループ代表という新職を設け、経営の実権を握り続けました。ホームページ上で経営陣の紹介のなか、重久さんがトップに登場し、その下に会長、社長が続いた画面を見た時は心底、驚きました。

 世界の工作機械をリードするファナックではさらに驚く事例があります。事実上の創業者、稲葉清右衛門さんが後任として選んだ社長の名刺には「営業担当」と記載されていました。稲葉さんに理由を訊ねたら「営業担当としてがんばってもらう」と即答で教えてくれました。

株価は8000円ぎりぎりで低迷

 こう振り返ると、永守さんの後継問題もそう驚くことでは無いかもしれません。ただ、繰り返し立ち往生するたびに燦然と輝いていたオーラと神通力は確実に陰り始めています。

 日本電産は7月の創業50周年に先立ち、4月にニデックへ社名変更しましたが、お祝いムードとは程遠い雰囲気です。後継問題が何度も立ち往生した結果、先行きに不安を抱く株主が増え、永守さんが最も大事と強調した株価に勢いがありません。2022年8月に1万円近くまで上昇した株価は、今8000円台ぎりぎり。後継者は「株価を上げる人」なら、株価を下げた責任者である永守さん自身がCEOとして相応しいのか疑問が浮かびますが、それはいつかまた・・・。

 だからなのか、打ち上げ花火のような話題が飛び出します。例えば「空飛ぶクルマの部品」。ニデックの株主総会直前の18日、航空機向けモーター部品事業への参入を発表しました。ブラジルの航空機大手エンブラエルと合弁事業を開始します。ニデックは電気自動車(EV)向け部品の拡大を急いでいますが、EVの次代市場「空飛ぶクルマ」へ一気に飛び上がります。

空飛ぶクルマ、M&Aと花火は打ち上がるが・・

 お得意のM&Aでもぶち上げます。株主総会後の記者会見では「1兆円規模の会社を買収していく」と表明。2030年度の売上高は10兆円、現在の4倍にまで押し上げる目標を掲げます。過去、70件程度の買収を手掛け、成功させている永守さんです。モーター以外の分野にも食指を伸ばすそうです。

 この時点で、すでに経営計画を説明する永守さんの念頭には、きっと自分自身の後継問題などはどこかへ吹き飛んでいたでしょう。

 首を傾げる発言もあります。株主総会では株主から上場企業として問題視されている分配可能額を超えた配当や自社株買いついて質問されましたが、永守さんは「人間はそんなにパーフェクトではない。公認会計士も見落とした。私も全然知らなかった。ありとあらゆる社内勉強会を始めて防いでいく」と説明したそうです。上場企業として基本中の基本を守れないことを「知らなかった」で通るのでしょうか。納得した株主は何人いたのでしょう。

 創業者の経営を継承する次期社長へのバトンタッチ、近未来分野への進出、M&A。いずれもニデックの業績と深く関わるテーマです。明るい話題と受け止めたいのですが、永守さん自身が描いたデッサンに過ぎません。誰が、そしてどのようにそのデッサンに絵具を加え、新たな「ニデック」に描き上げるのか。全く見透すことができません。

銀座にびっくりするビルがあります

 東京・銀座にとても驚くビルがあります。ビル正面に立つと立派なホテルかオフィスビルに見えるのですが、すぐ右横に回ると予想外に壁が薄いのです。強風が吹いたら、ポキッと折れてしまう怖さを覚えます。

 企業経営を見極める時、有価証券報告者などを通して真正面から眺めていても、全体像も実像も理解できません。ぐるりと四方八方を点検し、企業経営者、実務を支えているスタッフがどう働いているのか。数字と実相が一致しているのか乖離しているのか。しっかりと見渡し、表と裏を確認して真価を見極める必要があるーー。この薄いビルは教えてくれます。

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