ダイハツ 日野自と同じシナリオが始まる「輸出特化」と「スズキ」がキーワード
ダイハツ工業の経営再建が日野自動車と同じシナリオで進みそうです。安全認証の不正から立ち直るため、事業領域を根本的に見直しますが、再建を読み取るキーワードは2つ。「輸出特化」と「スズキ」。トヨタ自動車グループの日野はエンジンの不正認証をきっかけに経営・生産体制を根底から覆され、三菱ふそうトラック・バスと統合して生き残る道を歩み始めました。ダイハツもその先にスズキの軽事業との統合が待ち構えているのではないでしょうか。
新経営陣は不思議な人事
ダイハツ親会社の佐藤恒治トヨタ社長は、3月1日付でダイハツの奥平総一郎社長を更迭し、事業領域を「軽自動車に軸を置く」ことを強調しました。後任の社長はトヨタの井上雅宏・中南米本部長が就任します。取締役6人のうち5人は退任、残るのは星加宏昌副社長。星加副社長はダイハツ生え抜きで品質統括本部長を務めており、不正の再発防止を担当します。不正認証の責任者でありながら、再発防止に取り組む責任を負う。不思議な人事です。
社長人事はもっと不可解です。事業領域を軽に軸足を置くと言いながら、井上新社長は海外戦略の専門家。トヨタの36年間のほとんどは海外駐在で、ブラジルトヨタ副社長などを経て2019年4月に中南米本部長に。社長内示も出張先のペルーで真夜中に告げられ、「夢かと思った」とそうです。ダイハツはトヨタに比べて経営規模が小さいとはいえ、開発、生産、部品メーカーなどをまとめあげる産業ピラミッドの頂点に立ちます。自動車メーカーの社長として、しかも経営再建の重積を担う人物として経験不足は明らかです。
社長人選の焦点がダイハツの経営再建よりもダイハツをトヨタの輸出向け戦略車の開発・生産に置かれていると推察するのが正解でしょう。トヨタの佐藤社長はトヨタとの一体化も考えたそうですが、現在は完全子会社とはいえ創業時はトヨタと無関係の独立した自動車メーカーだったダイハツを再建するためには、トヨタが練り上げた再建計画を海外展開に精通した井上社長が実行する方がスムーズに進むと考えたのでしょう。
軽商用車開発から脱落
再建の大黒柱となる軽は誰が指揮するのか。世界一の自動車メーカーであるトヨタも、軽の経験はありません。同じ自動車でも小型車や高級車と軽は開発から生産までまるっきり異なる思想が必要です。スズキが深く関与するのではないでしょうか。その根拠はCJPTからの脱退です。商用車の電動化などを研究開発する「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)」は2021年4月にトヨタ、日野自動車、いすゞ自動車が設立し、同じ年の7月にダイハツとスズキが軽商用車を開発する目的で参画しました。
その後、日野が2022年にエンジンの不正認証を理由にトヨタの豊田章男社長(現会長)から”勘当”を言い渡されて脱退。今回もダイハツは安全認証の不正で脱退。CJPTは電気自動車など将来の新車開発が目的ですから、過去の不正行為で脱退するする必要はないと思いますが、不正行為をしたらCJPTから脱退するのが豊田会長の美学なのでしょう。
軽にとって電気自動車(EV)は将来の主戦場です。日産自動車、三菱自動車が軽EVを大ヒットさせたことからわかる通り、通勤や買い物など生活の足として利用する軽は、航続距離や充電に難点を抱えるEVにとって最も早く普及する市場です。ダイハツとスズキは近く軽EVの商用車を発表する予定でしたが、延期するそうです。ダイハツがEVの開発から抜け落ちることは、将来のEV市場に大きく出遅れることを意味します。その痛手を救うのは、CJPTに残るスズキしかありません。
工場売却などでスリム化するか
ダイハツは不正の原因とされた「過度な短期開発」や「認証部門の人員不足」を解決するため、車の開発期間を従来の1・4倍に延ばし、認証試験の担当者を7倍に増員します。開発から生産までのコストが急増するのは確実です。不正認証の発覚後、工場生産、販売停止、部品メーカーなどへの補償も経営に大きな負担として加わりますが、親のトヨタが事実上背負うのでしょう。輸出向け自動車の開発・生産など再建のシナリオが出来上がった段階で、ダイハツの工場はトヨタへの売却などでスリム化するのではないでしょうか。
軽はスズキとすり合わせ
事業領域の柱となる軽の開発・生産もスズキとすり合わせするはずです。日野自動車が三菱トラックバスとエンジン、車種を仕分けした事実上の会社解体と同じことが起こる可能性もあります。経営再建後のダイハツは、軽が主体というよりは輸出向け自動車の生産に特化するメーカーに様変わりしていると推察します。輸出向け工場はトヨタが管理し、軽はスズキが主導する。日野と三菱の統合計画を描き直した再建構想が目に浮かびます。ダイハツはこの時点で消えるのでしょう。
ダイハツは2023年10月に開催したはジャパンモリビリティショーで軽電気EVのコンセプトカー4台を発表しました。「環境に優しく、持続可能な存在である“小さなクルマ”を通じて、すべての人に豊かなモビリティーライフを提供し続けたい」という思いを提案したそうです。その1台のmeMO(ミーモ)は「あなたに寄り添うカタチ」をモジュール化した内外装部品を活用することで、クルマの意匠だけでなく車両形態の変更を可能にしました。
meMOは期待していた軽EVだったのに
テーマは「クルマと人の関係の再定義」。
クルマの作り方も楽しみ方もゼロから考えた新しいカタチ。
ユーザーとともに完成する一台は、
お客様のあらゆるライフステージに寄り添います。
ダイハツは日本の自動車メーカーの中でも最も斬新な発想で新車を開発してきただけに、EVにふさわしいコンセプトを提案すると期待していました。meMOはぜひ実現してほしいと願っていたクルマでした。実車を経験できないと思うと、とても残念です。日野自動車、ダイハツ工業・・・。日本の自動車産業が誇るべきメーカーが消えていきます。