エクソンモービル 石油メジャーがEVエネルギーのメジャーへ EVの価格にも影響
あの巨大企業が自慢げにアピールするとは思いませんでした。石油メジャーの米エクソンモービルです。電気自動車(EV)のバッテリーに欠かせないリチウムの採掘・生産事業への進出を自社のホームページで「リチウム」の大見出しでトップニュースとして伝えました。石油開発とかけ離れた新事業の進出と勘違いされたくなかったのでしょう。わざわざリチウム電池の実用化で2019年にノーベル化学賞を受賞したスタンリー・ウィティンガム氏をエクソンモービルの人材として紹介し、すでに蓄電池の開発経験が豊富であると強調します。これまでの石油開発の経験を活してリチウムのリーディングサプライヤーになると宣言までしました。
ノーベル化学賞の受賞者を抱える
石油や天然ガスなど化石燃料の巨大な利権と政治力を握り続けた欧米の資源開発会社は「セブン・シスターズ」「メジャー」などと呼ばれ、なかでもエクソンとモービルは別格でした。しかし、エクソンとモービルが経営統合した1999年以降、石油開発は油田開発による環境破壊、地球温暖化を招くCO2排出などですっかり悪役を演じる側に回りました。1980年代なら「泣く子も黙る」とまで言われたであろうエクソンモービルはその巨大さが、むしろ化石燃料以外の事業進出の足枷になるとまで言われました。
今回公表したリチウムの採掘・生産事業は意外にも堅実です。米国南部のアーカンソー州でリチウムの採掘権を取得、2027年から生産を開始し、その実績をテコに海外生産にも手を広げます。2030年には年100万台分のEV用バッテリーで使用できるリチウムを生産する計画です。
リチウム生産国が偏重する現状を打破
リチウムはレアメタル(希少金属)の一つで、充電を繰り返すEV用バッテリーの性能を引き出すために欠かせない素材です。今後、EVの普及スピードが加速するとの予想から、リチウムの需要は2030年までに4倍になるの見方もあります。ところが、リチウムを採掘できる地域は、オーストラリア、チリ、中国の3カ国に限られ、外交関係の悪化などで安定した調達が危惧される場合も想定されています。しかも、生産地域では採掘・生産の過程で深刻な環境汚染を引き起こしているとの指摘もあり、安全保障や環境対策の観点から日本などでリチウムを使わないEV用バッテリーの研究開発が加速しています。
エクソンモービルは、米国内で初めてリチウムを生産すれば、既存3カ国に偏っているリチウムの生産体制が是正され、世界各国への安定供給体制が整うとしています。環境汚染対策についても、石油採掘で磨き上げた世界トップレベルの掘削技術を使い、環境汚染を抑えた方法でリチウムを採掘、生産するとしています。
化石燃料の王者が脱炭素で稼ぐ
エクソンモービルは株主総会で環境対策などが手緩いとの批判を浴びています。CO2の排出抑制事業を急拡大しているますが、化石燃料に依存している限り、CO2排出や環境汚染の発生源との批判をかわすことはできません。これまでの事業の延長線上とはいえ、リチウムなどレアメタルの採掘技術を活用して、EVなど「カーボンニュートラル」ビジネスがどう変貌していくのか。とても興味深い経営改革のテーマになりそうです。
EV需要の先行きにも影響を与えそうです。エクソンモービルがリチウムを本格生産すれば、生産コストの高さが難点といわれているEV用バッテリーの価格も低下するでしょう。そうなれば、EVの車両価格も下がり、新たな需要を喚起するきっかけになります。CO2の排出源の化石燃料で稼いでるエクソンモービルが「カーボンゼロ」を実現に欠かせないEVで活路を開く。EVを軸に世界のビジネスがどんどん変わっていくる様が見えるようです。面白い光景を楽しめそうです。
エクソンモービルのHPを参照ください。
英語ですが、ネットの翻訳サービスで理解できます。
https://corporate.exxonmobil.com/what-we-do/delivering-industrial-solutions/lithium
◆写真はエクソンモービルのHPから引用しました。