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日野と三菱ふそうの「CASE」は親に見捨てられた経営統合 次はダイハツ?

 なんとも後味の悪い結末を見た思いです。本音と建前の違い。ビジネス社会では日常茶飯事ですが、トヨタ自動車とメルセデス・ベンツが演じるわけですから、あまり裏読みはしたくありません。ただ、内実を覗き見ると情けない。電気自動車など脱炭素に向けた「100年に一度の変革期」を迎えた自動車産業ですが、むしろ足元の岩盤から亀裂が生じていることが心配になってきました。

裏読みは好きじゃないのですが

 日野自動車と三菱ふそうトラック・バスが5月30日、2024年末までに経営統合すると発表しました。それぞれの親会社、トヨタと独ダイムラートラックが折半出資して新会社を設立し、その傘下に日野と三菱ふそうが子会社として入ります。経営統合の建て付けは、電動化や自動運転など次世代技術の開発に対応できる体制への移行です。親会社のトヨタ、ダイムラートラックも加わって、電気自動車(EV)や水素で走る燃料電池車(FCV)の開発、自動運転など「CASE」と呼ばれる次世代技術の開発に向けて力を結集することに合意したのです。

 4社の社長が揃って語った記者会見の内容を素直に受け取った人はどれだけいるのでしょうか。CASEの開発については、これまでも日野はトヨタが主導する次世代技術開発・企画会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)」に参加し、取り組んでいました。しかし、日野は昨年2022年3月、エンジン性能試験での不正が明らかになって以降、トヨタと日野の親子関係は一気に疎遠に。

 日野は参加していたCASEの会社から除名処分

 当時の豊田章男社長(現会長)は日野に対し「信頼に足る企業として生まれ変われるのか注視し、見守って参りたい」とのコメントを発表しただけ。トヨタが日野やいすゞ自動車などと次代のクルマ開発を目指して設立した「CJPT」についても「お客様や社会の皆様からの理解が得られない」との理由で日野を除名しました。

 日野はエンジン性能の不正試験の影響で23年3月期で1100億円超の赤字となり、3期連続で赤字を計上。22年度の世界販売台数は前年度比7・6%減の14万4614台と大幅減となりました。不正の結果は日野が全責務を負うのは当然ですが、親会社が子会社を支援する気配は全くなく、むしろ広がる溝の深さに驚愕するしかありません。

 冷静に眺めると、親会社のトヨタはお荷物となった子会社、日野を三菱ふそうに押し付けたとしか見えません。今回の経営統合によって、日野はトヨタの子会社から離れます。トヨタが日野を”勘当”したも同然です。トヨタの佐藤恒治社長は記者会見で「商用ビジネスについて、我々が日野を支えることの限界もある。我々にない強みをダイムラーに借りながら、みんなで未来への取り組みを進めて参りたい」と話しましたが、資本提携しているいすゞ自動車とはCJPTなどを通じて今後も協業する考えを明確にしており、日野といすゞとの温度差は驚くほどの違いです。 

ダイムラー、三菱ふそうに損はない

 一方、三菱ふそうはどうか。元の親会社の三菱自動車は2000年代に起こした大型トレーラーのタイヤ脱落事故やリコール隠しを起因に経営危機に追い込まれた結果、助けを求めたダイムラー・クライスラーとの提携交渉の過程で2003年に分社化され、ダイムラーのグループ会社になった経緯があります。三菱自動車の経営の混乱期にダイムラーが安く買い叩いたという見方もあるほど。ダイムラーにとってアジア拠点の経営強化を考えたら、トヨタに恩を売り、かつ開発、生産の技術や販売を含めた総合力で勝る日野を取り込めるのですから、損はありません。

 トヨタが子会社、日野を切り離したメッセージは、トヨタ系列の企業群にどう伝わるのでしょうか。豊田章男会長の逆鱗に触れたら、系列内にとどまれないのは明白になりました。トラック最大手でその技術力の高さで知られた日野でさえ、親会社は手を差しのべて助けることよりも、切り捨てる決断を下したのですから。

日野を切り離したメッセージは系列にどう伝わるのか

 トヨタの強さはトヨタの旗の下にいながらも、群雄割拠の様相を見せる強い系列企業の存在でした。それが今や、トヨタの創業哲学で手足を縛るような空気が充満しています。日野が切り離されたなら、同じ不正試験で立ち往生しているダイハツ工業の運命はどうなるのでしょうか。日野と同じ道を歩むことになるのか。それともスズキと早々と経営統合する奇策を打つのか。

 トヨタ系列で噴出する不正事案は、最強企業集団の強さよりも弱体化を映し出しているよう。企業がそれぞれが持つ個性やしなやかさが失われる。トヨタ系列に見える亀裂の深さは、「100年に一度の変革期」を目の前に立ちすくむ日本の自動車産業の硬直性も映し出しているはずです。

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