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2035年イグアナとハイブリッド車③ 生息地はガラパゴスより?、いやEVよりも広いかも

 ジェームズ・ワットが蒸気機関を発明した産業革命以降、人類は数えきれない失敗と成功を積み重ねて現代の文明社会を築き上げました。その象徴のひとつが自動車です。巨額資金を投入できる国力と精密な部品を製造する優れた技術がなければ自動車産業は育ちません。自動車産業を育成することは、先進国の扉を開けることにつながります。欧米に続き日本はじめアジア各国・地域が自動車を基幹産業に位置付け、国策として力を入れた理由はわかってもらえると思います。

地球の人口は10倍に増え、車も比例して増加

 産業革命が始まった1750年ごろの世界人口は7億人強。それから270年過ぎた今は10倍の77億人にまで膨張しました。国連は2030年に85億人、2050年に97億人、2100年ごろ110億人に達しピークを迎えると予測しています。本当にそうなるかどうかはともかく、人口増と同じ弧を描いて自動車は世界に普及してきました。

 自動車の排ガス技術をどんなに洗練したとしても、これだけ地球上の人口が膨張してしまったら、温暖化ガスの増加を抑制するのは不可能に近い。はるか昔、ティラノサウルスに追われ、逃げ回っていた人間の祖先はなんとか生き延びて地球を制覇しました。今度は自ら生存を危うくする立場に追い込んでいます。予想を上回る気候変動のなかで、残された選択肢は多くありません。ただ、ひとつだけではありません。

 仮に世界で走る自動車が全てEVに置き換わったらどんな事態が起こるでしょうか。動力源の電気はガソリン消費よりもエネルギー効率が良いとされますが、電気をあまねく送電するインフラ建設はどうでしょうか?送電線網、変電所など基本的なネットワーク、ガソリンスタンドに代わるキメ細やかな充電スタンドを整備するのにどのくらいの費用と時間が必要なのか。

原発10基分の新増設は可能か

 それよりもはるか高く立ちはだかるのが発電能力不足。日本自動車工業会の豊田章男会長が乗用車をすべてEVに切り替わった場合に必要な電力事情について説明したことがあります。エアコンなどで電力使用量がピークを迎える夏季は電力不足が起きやすく、その不安を取り除くためには現在の発電能力を10ー15%増が不可欠。原子力発電所で10基、火力発電所なら20基を新増設しなければいけないそうです。

 もっとも、走っている車が全てEVに切り替わるのはまだまだ先。不安を覚える必要はありません。しかも、豊田会長はEV転換の難しさを突いて早急なEVシフトを批判する狙いもありましたから、発電所不足はある程度割り引いて考える必要があります。ただ、日本の現状を冷静に見詰め直せば、原発10基、火力発電所20基いずれももかなりハードルが高い。いきなりEVが普及することはないとはいえ、仮にゆっくりと増えたとしてもEVへ供給できる発電能力に余裕が生まれるととても楽観できるわけがありません。

 この高いハードルは日本だけではありません。ロシアによるウクライナ侵攻で石油ガスなどエネルギー価格は高騰していますが、たとえ事態が収まったとしても中国はじめ欧米、日本以外のアジア各国、アフリカなどのエネルギー需要は高まるばかりです。資源高や関連インフラの整備などを加えた発電コストの上昇を考えたら、EVが走り回るために必要なインフラを構築できる国・地域はどの程度あるのでしょうか。かなり疑問です。

 しかも、EVの価格はガソリン車などに比べて高止まりし始めています。ガソリン・ディーゼル車の部品生産は過去の開発・生産投資によって量産効果と安全性が担保されています。これに対しEVの部品はエンジンなどに比べて点数が減るとはいえ、蓄電池やモーターなどの開発・生産投資は始まったばかりの段階です。販売台数もこれから増えると予想されますが、割高な生産コストを価格に反映せざるを得ません。各国政府はEV購入する際の優遇措置を設けており、例えばEVを最優先に増やしたい中国は補助金などで割安に購入できる制度を設けていますが、購入層は富裕層に限られます。米国でも一台あたりの購入額が高く、批判が高まっています。

価格も高く、発展途上国では高嶺の花

 アジアやアフリカなど経済の発展途上国にとっては、EVはもはや高嶺の花です。欧米や中国、日本で新車はEVに限定という政策が打ち出されていますが、2035年ごろにどの程度実行できているのでしょうか。EVが走り回る地域は今予想しているよりはるかに限られると思います。

 ハイブリッド車は自動車の進化から取り残され、日本など限られた地域”ガラパゴス諸島”で生息し続けるかと考えていました。ところが、電力供給などのインフラがまさに足かせとなり、EVの普及速度は予想よりかなり低めになりそうです。アジア、アフリカ、中南米など発展途上国では、ハイブリッド車が表通りを占めている風景が当たり前になっているかもしれません。実は環境に応じて生存能力を発揮するハイブリッド車の本領がこれから試されるのです。

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