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2023年、待ち受けるインフレ初体験 過熱するリスクが改革のチャンス

 「どのように値上げ交渉して良いのか知らない営業がほとんど」。ある大手機械メーカーの社長さんとお酒を飲んでいたら、びっくりするようなエピソードを教えてくれたことを思い出しました。

「値上げの経験者が皆無」と苦笑する社長

 1990年代初めのバブル経済が弾けて以来、経済成長率は実質ゼロ成長の域を脱出できず、賃金・年収はほぼ横ばいが続いています。価格は下げることがあっても、上がることは皆無。事実上、価格は「1980(イチキュッパ)」のイメージを捨てることができず、割安感をアピールしないとモノが売れない。

 「これからの値上げ交渉に備えて、経験者から秘訣を伝授しようと思って社内で探したら、うちの幹部クラスでも値上げ交渉した経験が無いんだ」と苦笑するばかりでした。こんなエピソードが遠い過去の懐かしい思い出になる日も近いようです。

 2023年、日本は初体験の時代に突入するのかもしれません。2022年は食料品はじめ電気など資源エネルギー関連の価格が上昇し始め、秋以降は何でもかんでも上がっている感覚でした。2023年に入っても、価格上昇の流れは変わりません。米国の消費者物価の上昇トレンドを対岸の火事のように眺めているわけではありませんが、二ケタ台の値上げが待ち構えているのでしょう。

世界経済はインフレと共存へ

 世界経済も値上げの影響を反映して、インフレが当たり前の時代になりそうです。世界最大の投資会社の米ブラックロックが最近、公表した「2023年の世界経済見通し」でも、「インフレとの共存」をテーマのひとつに選び、解説していました。米国の物価上昇はFRBの相次ぐ大幅な利上げが効果を上げ、ピークアウトした模様ですが、物価上昇率は下がり続けても2025年でも3%程度の水準に手が届き、2021年以前とは大きく様変わりすると予想していました。

 石油・ガスなどエネルギー価格はウクライナ侵攻による経済制裁でロシア産が事実上、欧米市場から締め出され、小麦など農産物も輸出大国だったロシアやウクライナが期待できないため、海外の商品市況が引き続き高水準で推移するのは間違いありません。

 日本経済にもインフレの波は押し寄せています。日本銀行は大規模な金融緩和を継続してきましたが、年明けの日銀総裁の交代で従来の政策を転換する可能性があります。すでに外国為替はドル以外の通貨でも円安が進行しており、輸入に依存する商品は大幅に値上がりしています。仮に日銀が金融緩和を修正しても、円安のトレンドは変わらないとみています。日米金利差が縮小するとの見方よりも、日本経済の脆弱さが露呈し、円売り材料になると考えているからです。

欧州は景気停滞、中国はゼロコロナで不透明

 欧州が景気停滞するのは確実とみられており、米国の経済成長率も低下するでしょう。中国はゼロコロナ政策の失敗で2023年の経済先行きはかなり不透明です。日本だけが踏みとどまる実力はなく、むしろ世界経済のインフレと不況の嵐に巻き込まれるのは避けられません。

 この経済状況をチャンスとみることができるか。30年以上横ばいだった経済成長率や年収が上昇トレンドを取り戻すことができるか。物価高騰に対応して冬のボーナスが増えているそうですが、企業は人件費の負担増を乗り越えるため、原材料費高騰も加えて取引価格を引き上げるでしょう。

日本経済も企業も値上げを通じて実力が問われる

 価格引き上げを実現すためには、取引先との力関係だけでなく技術力、製品の独自性など誰もが納得する「製品の強さ」が求められます。その強さを現出できた企業だけが成長できるとしたら、大幅な価格引き上げは「成長する企業」と「衰退する企業」をふるい分けるフィルターになるでしょう。

実は経営改革のチャンス

 これまで「経営改革」を連呼しながら、結局何も変わらずに時間を費やした日本経済と企業。日本経済の停滞とともに、成長力を期待することすら無駄に思えるのが現況です。

 もし2023年が高インフレ時代に突入したら、日銀の金融政策の転換をきっかけに日本経済は屋台骨から揺らぐでしょう。それをなんとか改革への重い腰を上げる後押しとして期待したい。生活は苦しさが増すと思いますが、「明けない夜は無い」と思える希望の感触がつかめれば、苦しさも乗り切れます。チャンス到来と確信する何かが待ち受けているはずです。

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