• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

セブンでも黒子役 伊藤忠・岡藤流、三菱・三井追撃の秘策は舞台裏にあり 

 セブン&アイ・ホールディングスを巡る買収交渉がいよいよ熱くなってきました。買収提案したカナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール首脳が日本のメディア取材に応じてアピールする一方、対抗策してMBO(経営者による買収)を提案した創業家・伊藤側の生の声も漏れ聞こえてきました。注目したいのは伊藤忠商事の岡藤正広会長。伊藤忠は多くの提携・買収を黒子役として成功させてきましたが、岡藤会長は久しぶりに「伊藤忠らしさ」を彷彿させる剛腕経営者。悲願は三菱商事、三井物産の財閥系総合商社を追い抜く。巨大投資案件のセブン&アイ買収でもカギを握る黒子役を演じるはず。

久しぶりに「伊藤忠らしい」

 岡藤会長は「東洋経済ONLINE」2024年12月2日号でセブン&アイのMBOに参画した理由を説明しています。

「クシュタールがセブンを買収したら、フランチャイズ加盟店は安心して仕事ができないだろう。ロイヤルティーを引き上げたり、無駄を省いたりして効率的に企業価値を上げる、なんてことはすぐにやるかもしれない。だが鈴木敏文氏の時代から味を徹底して追求してきたのがセブンだ。効率性だけでは困ることもあるだろう」

「そこで、われわれも協力させてほしいと言ってきた。なかなか門戸を開いてもらえなかったが、今ではやっと話を聞いてもらえるようになった」

 伊藤忠は8兆円以上が必要とみられるMBOの資金調達で創業家の伊藤興業、メガバンク3行に続いて参加しています。セブンイレブンに次ぐコンビニ第2位のファミリマートを傘下に収めているだけに、仮にセブン&アイのMBOが成功すればファミマとの連携も視野に入りますが、本音は漏らしません。岡藤会長はあくまでもセブンイレブン創業者である鈴木敏文氏との親しい関係を前面に支援に名乗りあげたというのです。自ら演じる役割はM&Aのホワイトナイトと任じています。

 発言の意図をどう受け止めるかはそれぞれでしょうが、とても鵜呑みにはできません。なにしろ伊藤忠とセブンイレブンの馴れ初めは1973年。イトーヨーカ堂が米セブン‐イレブンの運営会社サウスランドと提携する仲介役を演じたのは米国伊藤忠。J・W・チャイ副会長でした。見事に日本進出を果たしたセブンイレブンに創業当初から酒類などを卸しています。提携仲介によって新たなビジネスパートナーを創出する、あるいは切り崩す。伊藤忠流の典型例です。

先輩にはチャイ氏、瀬島氏

 チャイ氏は「伝説の商社マン」と呼ばれただけあって、1970年代から日米の大型提携の舞台裏で活躍していました。主役ではありませんが、脇役?、提携のストーリーを描く脚本家と言った方が正確かもしれません。ビッグニュースの匂いを発しているためか、新聞記者はチャイ氏の動向を追うのに必死でした。

 1980年代に入ってからは、ヨーカ堂とサウスランドに続き、世界最大の自動車メーカーGMと軽自動車のスズキの提携をまとめ上げます。両社の経営規模があまりにも違うため、「鯨とメダカが提携した」と呼ばれました。もっとも、鈴木修社長は「スズキは蚊のようなもの。いざとなったら、蚊は飛んでいける」と精神的には対等関係と強調していました。

 続いて、トヨタ自動車と米GMの合弁事業でも黒子役を果たしました。こちらは両社とも日米最大の自動車メーカーでしたから、世紀の提携と呼ばれました。チャイ氏の夫人は自動車表評論家として有名なマリアン・ケラー氏。自動車メーカーを軸にしたビッグビジネスが多い一因かもしれません。

 伊藤忠会長を務めた瀬島龍三氏の存在も忘れるわけにはいきません。大本営の参謀本部出身で敗戦後はソ連に抑留され、日本に帰国してから伊藤忠に。真偽のほどはわかりませんが、その交渉力で出世街道を駆け上り、会長にまで上り詰めました。よく知られているのはGMといすゞ自動車の資本提携でしょうか。仕掛けた案件で自動車産業が絡むのは日本の基幹産業が自動車だったこともあります。裾野が広いので、仲介の見返りは大きいですから。

野武士の精神で仕掛け続ける

 多くの提携を仕掛けるビジネススタイルから、伊藤忠は野武士集団といわれた時もあります。日本の有力企業と深い関係を持つ財閥系の三菱商事や三井物産と違い、伊藤忠は自ら市場創造しなければ後塵を拝するだけ。水面下、あるいは舞台裏でさまざまな戦略を練り、時には権謀術数と呼ばれようがビッグビジネスをものにする。これが伊藤忠の真骨頂です。

 岡藤会長にも大きな勲章があります。繊維部門で育ち、巧みな人脈作りによってイタリアの高級ブランド、アルマーニの独占輸入販売権を獲得します。2010年の社長就任後、2016年に三菱、三井を抜き悲願のトップへ。しかし、資源投資で抜きん出ている三菱、三井に抜き返されます。

 伊藤忠・岡藤流はそんなことで萎えるわけがありません。中古車販売のビッグモーター事件では名乗りをあげ、事業を継承します。資源では追いつけませんが、着々と事業領域を広げています。セブン&アイのMBOは舞台裏で準備する黒子にとって一場面に過ぎないのです。

関連記事一覧

PAGE TOP