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軽EVは日本を救うか④ スズキとダイハツが創るEVの世界標準 低価格と使い勝手に特化

 「軽EVは日本を救うか」。これまでの3回連載を通じて、軽自動車が世界の電気自動車(EV)市場の一翼を担う可能性が高いことがわかってもらえたでしょうか。日産自動車と三菱自動車が2022年に発売した「サクラ」「eKクロス」が使い勝手が不安視されていたEVの壁を見事に突破。軽EVの実用性とまだまだ広がる可能性を示しました。

 そしてホンダ 。2040年までに新車すべてをEVに全面転換する経営目標を達成するため、日本国内で最も売れている軽「N-BOX」で培った経験をどう活かすのか。N-BOXはガソリンからEVへ転身する過程で軽規格を上回る小型車も飲み込み、EVの新しいコンセプトカーに生まれ変わるはずです。

軽を創り上げた原動力ははスズキとダイハツの熾烈な闘い

 まだ主役が登場していません。軽EVの近未来を語るうえで欠かすことができない主役です。

スズキとダイハツ工業。両社は軽市場のシェア争いを続けながら、軽の進化を牽引してきました。軽が日本の新車販売の4割を占めるまで存在感を高めた原動力は、スズキとダイハツの熾烈な闘いにあります。年度シェア1位が決まる3月は圧巻です。毎日、スズキとダイハツが1位と2位とを行ったり来たり。いかに1台でも多く積み上げるか。火花が散る闘いとはこういうことかと思い知ったものでした。

 660CCのエンジン、定められた車体寸法などタガをはめられた世界での競争です。まず求められる機能は、安全に走って止まること。毎日の通勤、仕事、買い物などに利用する「自分の足」ですから、使い勝手の良さが選別の決め手。スズキかダイハツにするか。悩んだら価格が安い方。

 当然、メーカーにとって儲けはトヨタ自動車や日産の小型車、上級車に比べて低い。販売店も専売だけでなく、中古車や修理・整備を兼業する業販店が主力です。メーカーと販売店の信頼・人間関係、言い換えれば「義理と人情」がモノを言う世界。

タガがはめられた宇宙で他が真似できないクルマが誕生

 やっぱり、日本独特のガラバゴスの自動車市場?そんなことはありません、この闘いが世界標準を創り上げる源泉ですから。例えば生産。必要な機能に特化した簡素のクルマに見えるかもしれません。しかし、決められた規格のなかで安全に走って止まり、しかも価格は100万円を切る水準からスタート。トヨタの生産担当者がスズキの工場を視察して「とても真似できない」と感嘆したといいます。あの小さなクルマを生産する参入障壁はとてつもなく厚く高いのです。

 日本の新車販売の4割を占めるといっても、生産しているのは4社。ホンダ は自社ブランドだけですが、スズキはマツダへ、ダイハツはトヨタとスバルへそれぞれOEM(相手先ブランド)供給しています。三菱と日産は軽専業の会社を設立し、自社ブランドで発売していますが、生産・技術はもともと手がけていた三菱が主体です。

世界で勝負できる競争力も兼ね備える

 日本独特の規格である軽は、国内でしか通用しない自動車モデルと思われるかもしれません。しかし、価格が安くても小さな点のような傷やちょっとした不具合を許さないのが日本の消費者です。日本だけのガラパゴス・モデルに収まらず、世界に通用する基礎体力は十分にあります。日本市場で揉まれた軽の開発・生産のノウハウは、世界市場で通用するのは間違いない。電気自動車(EV)が普及するなかで、走行距離を気にせず日常生活で使い回しができる小型車がかならず大きな比率を占めるはずです。

 そのEV市場で世界標準を構築するのはスズキとダイハツです。両社はともに軽よりクラスが上となる小型車の開発に力を入れており、ヒット車を放っています。スズキの「スイフト」「クロスビー」「ジムニー」、ダイハツの「タント」「ロッキー」などは軽と小型車の境界を超えた車造りに成功している例です。

VWが低価格なEVを投入へ

 2023年に入って軽の強さがEVでも発揮される予兆が見えてきました。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は2025年以降、2万ユーロ(約280万円)以下の低価格帯のEVを発売する計画を明らかにしました。もともと小型車に強いメーカーですが、現在のEVのカーラインナップよりさらに2割低く設定したいそうです。中国のEVメーカーが欧米や日本に進出して価格競争が本格化します。これまでガソリン車より割高だったEVにも低価格競争が始まります。

 スズキは2023年中に商用車の軽EVを発売する予定です。用途は配送に絞り、走行距離も1日50キロ程度に抑えるようです。価格を抑えるため、車体価格の3割以上も占めるバッテリーを減らすのが目的だそうですが、それでも価格は200万円を超える可能性があるそうです。

スズキは軽商用車のEVを発売へ

 「ここからがスタートだ」。スズキを軽トップメーカーに押し上げた名経営者の鈴木修さんなら、開発陣をこう鼓舞するでしょう。かつて冗談を交えて悩んだ時の人生訓をアドバイスしてくれたことがあります。「渡る世間は鬼ばかり。というが、仏様はかならずいらっしゃる」。自分の力を信じて挑んでみる。軽の底力を信じています。

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