日本の軽薄短小は、燃え尽きる? 成功が自己否定を否定する
日本のバブルが頂点を迎えた1990年代初め、日本の産業力の強さを「軽薄短小」の4文字で例えられました。戦後日本の高度経済成長は鉄鋼や造船などの「重厚長大」をエンジンに成長してきましたが、1990年代以降は半導体、エレクトロニクスなど軽く薄く、しかも手のひらに載るような極小な製品が次の成長力を生み出してきたからです。
重厚長大から軽薄短小へーー産業史に残るキーワードです。当時を振り返れば日本製半導体の世界シェアは1989年に50%を占めたのです。当時のブッシュ大統領が半導体メーカーを引き連れて日本で記者会見を開き、暗に手加減して欲しいと表明したほどです。エレクトロニクス担当でしたから懐かしい出来事です。
軽薄短小の成功が次の成功を自己否定する。
そして今、カーボンニュートラル、カーボンゼロを謳い文句に成長戦略が練られ、掲げられています。日本の企業にとって新しい象徴的なフレーズは「軽薄炭小」と一字を差し替えることができるかもしれません。技術の目指すゴールは大きく変わりません。しかし、軽薄炭小の時代で日本は全く劣勢です。
半導体などは韓国、台湾に追い抜かれ、中国の追撃に遭っています。脱炭素ブームのなか、日本企業は足踏みをし続け、手をこまぬいていたのでしょうか。環境問題では日本企業はトップを走っていた時期がありました。ホンダのCVCCエンジンの開発はよく知られていますが、直近ではトヨタ自動車の「プリウス」が世界の自動車メーカーに衝撃を与えました。ハイブリッド車を実用化し、燃焼型エンジンに頼っていた世界の自動車メーカーに衝撃を与えました。自動車以外でも高効率の機械や製品を相次いで開発し、省エネ技術では先行していました。
どうして後塵を拝することになってしまったのでしょうか。アップルが「iPod」を発売した時の衝撃が思い浮かびます。携帯型オーディオではソニーがウオークマンで世界を席巻していました。
余談ですが、発売直後、大学生だった頃、「ウオークマンを聴きながら、渋谷のセンター街や交差点を歩いてくれ」というアルバイトを頼まれたことがありますが、「そんな恥ずかしいことはできません」と断ったことがあります。今じゃ信じられない。
iPodに戻ります。主要部品は日本製が占めており、ソニーに限らず製品化しようと思えばできたはずです。パイオニアはカーナビシステムにハードディスクを使った再生機を組み込んでおり、大枠の考え方は変わりません。
ウオークマンの成功がiPod、iPhoneの道を見失う
ウオークマンを開発したソニーの黒木さんは「製品化しないけど、こんなものがもうできているんだ」とマッチ箱サイズの携帯オーディオを見せてくれたことがあります。スティーブ・ジョブスはソニーを尊敬すると言っていました。日本には成功すると、ゼロから開発する改革意欲できない風土があるのではないでしょうか。
戦後の高度成長は奇跡と言われましたが、それは戦争によってゼロからの仕切り直しを強いられたからです。世界に伍するという目標に向かって突っ走るのは得意ですが、頂点に立ってしまうとゼロに戻る恐怖というか成功を崩すことを言い出せない。軽薄短小で世界のトップに立った日本は成功体験を捨て去る「軽薄さ」を持てず、成功体験に燃え尽きして縮小する「炭小」となってしまったのでしょうか。
長年の取材で得た経験を振り返っても、技術開発の現場はそんなひ弱ではありません。成功体験を信じ続ける経営トップらから現場にどこまで改革の力を取り戻せるかにかかっていると考えます。自社の強さを確認しながら取捨選択を繰り返し、成長のベクトルを定めたソニーの復活劇が身近にあります。日本の企業復活を信じたい。