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三菱商事、洋上風力発電で522億円の減損 建設受け入れの秋田、千葉への減損処理は?

 地方は太陽光や風力など再生可能エネルギーを受け入れるコストをどう受け止めるのか。そんな不安がよぎりました。三菱商事が国内の3海域で進めていた洋上風力発電が突然、頓挫したからです。

洋上風力はゼロベースに

 三菱商事、子会社の三菱商事洋上風力を中心とする企業連合は秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、由利本荘市、千葉県銚子市の3海域で進めていた事業計画を見直します。事業費が世界的なインフレや円安などで、輸入する風車などが予想を上回るコストに上昇、採算が合わなくなったと判断したそうです。三菱商事は事業見直しに合わせて522億円も減損処理しました。中西勝也社長は「事業性の再評価を行っており、予断を許さず総合的に判断する」「ゼロベースで見直す」と答えており、撤退そのものを否定していません。

 秋田、千葉両県で進めていた事業は巨大プロジェクトです。国の洋上風力発電事業の「第1ラウンド」と呼ばれる公募事業で、総額1兆円に迫る規模といわれています。

 それだけに建設を受けれ入れる地域との合意形成がとても大事になります。洋上風力発電は太陽光発電や陸上風力発電と違って沖合に風車を設置するため、通常の再生可能エネルギーの建設事業よりも高度な技術が求められるうえ、漁業関係者や自然の環境保護など幅広い観点から詳細な説明が必要になります。

地域との合意形成はとても大事

 原子力発電所建設計画の取材を通じて経験していますが、巨大プロジェクトを受け入れ態勢を整えるためには、秋田、千葉両県の行政、地元の皆さんは相当苦労したはずです。秋田県を例に見ても、日本海側の沿岸部にはすでに大規模な風力発電の風車がずらりと立ち並んでおり、騒音や渡り鳥などの悪影響に対する声が出ていました。さらに洋上に大風車が並べば、誰でも不安は増殖します。自然環境に与える影響はもちろん、漁場など経済的な悪影響を調べ、地域の利害関係者と協議する場を重ねる膨大な作業が待ち構えています。

 1兆円プロジェクトですから、経済的な恩恵に対する期待も高まっています。原発建設でも同じでしたが、国や県などが巨大投資をきっかけに地元経済が浮揚する仕組みを支援する必要があります。秋田魁新聞をみると、能代市の企業が洋上風車部品の修理業務を受注するため、デンマークの風車メーカーから認証登録を受けるなど新たな投資の動きが伝えられています。同紙の社説でも県内企業の参画を促進する施策と求めていますが、至極当然のことです。

 人材育成も始まっています。秋田高専は独立行政法人国立高等専門学校機構から洋上風力関連の人材育成に力を入れる拠点校として選ばれ、2025年4月から専門的に学ぶプログラムをスタートさせます。洋上風車のプロジェクトをきっかけに地域経済の追い風を吹かしたいという思いが秋田魁新聞の多くの記事から読み取れます。

地域活性化の努力は始まっている

 推進する三菱商事も地域貢献に尽力する姿勢を示していました。「持続可能な漁業支援体制の構築」「地域産業の振興と雇用の創出」「住民生活の支援」を3本柱にグループ企業のローソンや協力企業と連携して、地域産品の販路開拓を進めています。

 千葉県を例に見ると、銚子市に三菱商事の支店を開設し、三菱商事洋上風力とともに市や漁協などと連携して地域活性化につながる共生策を進めています。三菱商事系列のコンビニ「ローソン」では銚子発の地域産品の販売がスタート。銚子市で開催された住民説明会では、三菱商事洋上風力の伊原弘雅プロジェクトダイレクターが「30年の長期にわたって、みなさまとともに持続可能な地域共生策を進めたい」と決意を述べています。

 銚子市は全国の地方都市と同様、人口減少が進み、市の財政も厳しさを増しています。日本一の水揚げを誇る銚子漁港を抱えていますが、漁業者の高齢化と後継者不足で先行きは見えません。銚子市の越川信一市長が洋上風力発電を通じて、再エネと地域産業が共生して自律的で持続的なまちづくりを目指すと期待するのは当たり前です。 

 三菱商事の500億円を超える減損処理で、これまでの努力とアイデア、施策すべてを吹き飛ばしてしまうのか。実は三菱商事は当初から赤字覚悟だったのではないでしょうか。三菱商事が秋田、千葉両県の第1ラウンドを落札した際、入札で示した売電価格があまりに低く、赤字入札ではないかと言われたそうです。入札上限は1キロワット時当たり29円でしたが、三菱商事は11〜16円台を提示。ライバル社が20円台で応札したそうですから、三菱商事の事業採算性が疑問視されても不思議ではありません。

問われる三菱商事の覚悟

 赤字覚悟で落札したのなら、ぜひプロジェクトを継続してほしいものです。

 三菱商事洋上風力のHPには以下のように掲げています。

この国のつぎへ。

私たち三菱商事洋上風力株式会社は、カーボンニュートラル社会の主力電源として期待される洋上風力発電事業に取り組んでいます。貴重な資源である風と海、そして地域の皆さまと共に日本の未来を創り出したいと考えています。

まさにそうして欲しいです。三菱商事もHPで以下のカーボンニュートラル時代への覚悟を示しています。

マテリアリティ(重要課題)

三菱商事は、企業理念「三綱領」に基づき、事業を通じて社会の持続可能な発展へ貢献し、価値創造に取り組むことで、社会と共に発展してきました。『中期経営戦略2024』で目指すMC Shared Value(共創価値)の継続的な創出に向け、当社が解決していく重要な社会課題である「マテリアリティ」を指針として、当社の持続可能な成長に向けた取り組みを強化していきます。本件は、事業活動を通じて目指す「カーボンニュートラル社会と物心共に豊かな生活の実現」に関する6つのマテリアリティの内、特に「脱炭素社会への貢献」と「持続可能で安定的な社会と暮らしの実現」に資する取り組みになります。

 三菱商事の2025年3月期は、資源ビジネスの好調さを受けて純利益は9500億円を見込んでいます。洋上風力発電をなんとか地域経済の浮揚力にしたいと考え、地域がこれまで投じてきた資金や労力を足し算しても、三菱商事の純利益の1割にも満たないでしょう。三菱商事のみなさん、仮にこのまま事業が頓挫して終えばカーボンニュートラルを掲げながら、本音はやっぱりお金目当てだけといわれてしまいますよ。それでは、投資ファンドと変わりません。日本を代表する優良企業です。ここはHPで掲げた理想を現実にしてほしいです。

◆ 写真は三菱洋上風力のHPから引用しました。

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