
不適切会計のニデック 創業者が退場しても再生の道は五里霧中
ニデックは12月19日、創業者の永守重信グローバルグループ代表(81)が同日付で代表取締役を辞任したと発表しました。国内外の子会社で不適切な会計処理が判明しており、永守氏は「世間の皆様にご心配をおかけすることになり、申し訳なく思う。再生が最重要課題の今、経営から身を引くことにした」とのコメントを公表しました。
「どのような困難からも逃げずに」
日本の株式相場を左右したほどのニデックが世界中で不適切会計に手を染めた”事件”は、大きな信用失墜であり、創業者としての責任を明確にするのは当然です。日本経済新聞は「カリスマ創業者が突然退場」との見出しを掲載していましたが、取締役退任は誰もが予想しており、驚きはありません。
それよりもカリスマ創業者が退場した後のニデックは再生できるのでしょうか。あまり予想したくありませんが、かなり厳しいはず。永守氏が育て上げた売上高2兆円の総合メーカーは技術力、品質、価格ともに世界で高い評価を集めていますが、それは永守氏のDNAが会社の隅々にまで行き渡っていたからです。その永守氏が退場したからといっても、DNAが消えるわけではありません。
永守氏が公表したコメントを見てください。
1973年、私は、たった四人で日本電産を創業した。人もいなければ、金もない。設備はもとより、技術も知名度もない。小さなプレハブ小屋からのスタートだった。そして、50年間、ニデックを世界一の総合モータメーカーとするべく、社員とともに、ひたすら一生懸命、どのような困難からも逃げずに、ニデックを経営してきた。
「社員とともに、ひたすら一生懸命、どのような困難からも逃げずに、ニデックを経営してきた」と述べている通り、従業員のみならず後継を託した社長にすら「どのような困難からも逃げずに」を求め続け、その首を何度もすげ替えました。退任後も、非常勤の名誉会長に留まる永守氏の口惜しさは察するに余りありますが、残された従業員は明日から会社の運命がどうなるのか不安でいっぱいです。名誉会長すら諦める潔い決断はありえなかったのでしょうか。
岸田社長は再生をリードできるか
不適切会計の真実は2026年初頭に明らかになる第三者委員会の調査結果を待たなければいけません。ただ、創業者ならではの強すぎる熱い思いが企業倫理を忘れて決算数字を高収益に見せかけることを最優先する歪んだ組織にしてしまったのは間違いありません。ニデックの社内調査によると、子会社で関税を低く申告したり、源泉所得税を意図的に過少申告したりする不適切事例が確認されています。
永守氏は岸田光哉社長に「すべてを委ねる。これで、ニデックは、しっかり再生できると信じている」としています。岸田社長は再生の指揮を取ることになりましたが、自由でおおらかなで上司と部下が議論し合う企業風土のソニー育ちの人間が永守氏の「ブラック」ともいえる質実剛健、言い換えれば「NO」といえない社風を変えることができるのか。ソニー時代、赤字が続いたスマートフォン事業を黒字転換した経営手腕があったとしても、ニデックグループの経営幹部、従業員が永守流の経営を一度捨て去り、全てを一新するには時間がかかります。
ニデックの目の前に待ち構える再生の道は、五里霧中としかいえません。万が一、迷路にはまり込んでしまったら、容赦ないM&Aが襲いかかります。小型モーターで世界トップシェアを握り、世界各地に拠点を構える2兆円を超える優良企業を見逃すわけがありません。ニデックが迎える2026年は波乱の年になるのでしょうか。

