日産は第2のエルピーダになるのか、試される日本の次世代技術の継承力と覚悟
日産自動車を巡る騒動が再燃するのでしょうか。1990年代以降、日産の経営危機は何度も目にしており、失礼ながら驚きはありません。しかし、今回はなんとしても存続させなければいけません。自動車産業は100年以上も続いたエンジンの時代から電気自動車(EV)など新エネルギーの次世代へ移行するタイミングです。自動車メーカーの再建というよりは、人工知能(AI)、自動運転、新エネルギーなど次世代の技術をいかに継承し、進化させるかが求められています。その視点からみれば、日産は日本の製造業の強さが凝縮された存在です。もう2度と半導体・エルピーダメモリーの悲劇を繰り返してはいけません。日本の覚悟が問われているのです。
再び憶測が飛び交う
すでに日産に関する憶測が飛び交っています。英フィナンシャル・タイムズは日産が資本提携先のルノーが売却した日産株の引受先を探していると報じました。引受先は銀行、保険会社、EVで協業するホンダを含めて「あらゆる選択肢」を検討していると伝えています。日産とルノーは2023年11月に資本構成の見直しに合意しており、ルノーが保有する日産株は順次、売却される方向は明らかになっています。合意内容に従って日産株が新たな株主に渡る事実に新しいニュースがありませんが、ホンダの名前など加わると「自動車産業の再編」を彷彿させ、話題になるのでしょう。
なかには村上ファンド対策の情報もあります。「もの言う株主」として知られ、行動力もある村上ファンドが日産の大株主として浮上しています。2024年9月中間期の悲惨な内容を「渡りに船」に日産の経営改革に口出すはずと周囲は期待しており、日産は対抗上アクティビスト対策のベテラン弁護士を起用したそうです。
なにしろ2024年9月中間決算は事実上、利益ゼロに近い数字です。業績を支えてきた米国と中国が大幅な販売不振に陥り、回復の気配がみられません。世界全体で従業員を9000人削減し、生産能力も20%減らすほか、保有する三菱自動車の株式約34%のうち最大10%を売却する計画を公表し、経営再建を急ぐ構えはみせました。しかし、ここまで業績を悪化させてしまった現在の経営陣に息を吹き返すだけの指導力はあるのかと誰もが疑問視しています。「何があっても驚かない」とあらゆる可能性について日産の動向を注視するのは当然です。
自動車メーカーは日本の製造業が凝縮されている
自動車産業は日本経済にとって基幹産業です。トヨタ自動車や日産などを頂点に富士山の裾野のように部品メーカーが集積しており、万が一にも経営破綻となれば甚大な被害が広がります。
それだけではありません。自動車メーカーは、地球温暖化対策として脱炭素に向けて疾走中です。EVはその一端に過ぎません。例えば車載用電池。充電能力、時間の短縮化、安全性などを高めるため、猛スピードの開発競争が世界で繰り広げられています。その成果はEVにとどまらず、あらゆる製品に応用され、その世界市場は爆発的な勢いで成長します。
自動運転もそうです。人工衛星からの位置情報、周囲の自動車や人の流れ、天候など多くの情報を基に人工知能が判断し、自動車の速度や運転を調節します。米テスラが人間と同じ挙動と判断を下せる人型ロボットの開発を急いでいますが、そのロボット技術をEVにも応用し、新たな社会インフラを構築する基盤技術にする狙いも秘められています。
日産は経営こそ不甲斐ない会社ですが、日本では三菱自動車と並んでEVで先行しているうえ、幅広い分野の技術者を抱えています。日本の財産ともいえる製造技術は次世代の産業創造には欠かせません。どんな形にしろ、存続する価値はまだあります。
エルピーダ破綻のツケは今、兆円単位で払っている
思い出してください。2012年に経営破綻したエルピーダメモリー。2002年、世界のメモリー市場の過半を握っていた日本の半導体メーカーの最後の砦として日立製作所、NEC、三菱電機の半導体メモリー事業を統合して出来上がった会社です。政府も産業活力再生法を活用して公的資金を投入し、日の丸半導体プロジェクトとして支援はしました。
しかし、世界の半導体競争は熾烈です。技術力、資本力いずれも兼ね備え、しかも迅速に経営判断する胆力が必須でした。日本政府や政府系銀行の支援は中途半端というか、後手に回ります。世界最高水準の半導体製造技術を持ちながらも、サムスンなど韓国、台湾勢に敗れました。2012年2月、エルピーダは会社更生法を申請します。会社創設からわずか10年しか持ちませんでした。
今、日本政府は半導体の再興に向けて台湾TSMC、米マイクロン、さらに日の丸プロジェクト「ラピダス」に兆円単位の助成金を投入しています。今頃になって何兆円もの資金を費やすなら、12年前になぜエルピーダーに投入しなかったのか。素朴な疑問は消えず、不思議でなりません。
技術と人材は死守して
日産とエルピーダをすべて重ね合わすつもりはありません。共通するのは次世代技術を継承し、進化させるためにも、基盤となる企業であることです。企業の形はどうあれ、「日産」の技術とヒトは死守して欲しいです。