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卒寿の日産が下請けいじめの三流経営「三つ子の魂百まで」 

 公正取引委員会が日産自動車を下請法違反で勧告します。下請け企業へ支払う自動車部品の金額を一方的に引き下げたと認定しました。下請法が施行した1956年以降で過去最高額だそうです。日産は2023年12月、創立90周年を迎える名門企業。人間に例えれば卒寿。本来なら自動車産業の頂点に立つ一流企業として経営の模範を示す立場ですが、今も強引な値引きに頼る三流の経営から抜け出せられません。「三つ子の魂百までも」との諺はやはり本当でした。

今も強引な値引きに頼るとは

 読売新聞などによると、下請法で認定した違法な減額は、過去数年間で30社以上に対して行われ、30億円を超えるそうです。契約した金額から数%を減額して支払っており、減額率は日産側が一方的に決め、10億円超を減額された業者もあったといいます。やり口があまりにも強引で呆れ果てます。日産は違反を認め、業者側に減額分を支払ったそうです。

 自動車メーカーと部品メーカーの力関係は歴然です。エンジン車の場合、3万〜5万点の部品を調達して1台の車に組み立てます。トヨタ自動車や日産は、調達する部品を大手部品メーカーに発注しますが、実際の部品生産は大手部品メーカーから1次下請け、2次下請けへ受け継がれていきます。トヨタの場合、下請け企業まで数えると4万社近くになるそうです。大量の部品を発注する自動車メーカーは数多くの部品メーカーの命運を握っているだけに、たとえ強引な値引きを要求されても、相当悪質でない限り断れるものではありません。

部品の値引きは慣例

 もっとも、部品の値下げ要求は慣例化していました。部品メーカーは受注した部品を生産するため、金型や機械などに設備投資しますが、大量生産による効率向上や設備の減価償却などで「生産コストは減少している」を理由に前年の納入価格からの値引きは当然視されていました。

 自動車の部品点数は3万〜5万点に及ぶわけですから、値引き額が数%でも全体を合計すれば大変な数字になります。自動車メーカーの巨額の利益は、部品メーカーの減額要求に応える経営努力によって支えられていました。公取委は日産の違法行為について数年間程度を対象にしているようですが、実際はもっと長年にわたって行われていた可能性もあります。

 日産の経営は山あり谷ありの連続です。トヨタと2強を誇った時もありましたが、1990年代から収益が悪化。その後も回復できず、経営破綻寸前の1999年にフランスのルノーとの資本提携で息を吹き返します。経営の実権を握ったカルロス・ゴーン氏による大胆な改革によって、日産に部品を供給していた系列企業グループを捨て去り、過去のしがらみなど無駄を徹底的に排除する収益重視の経営戦略を前面に出します。

 部品の調達も名目上、質と価格が見合う合理的な交渉が前提です。ところが内実は大量発注を「ニンジン」に部品メーカーに対し値引きを迫るものでした。カルロス・ゴーン氏は公約通り、日産再建に成功した名経営者と持て囃された時期がありましたが、その原動力となった部品メーカーの経営努力を見逃すわけにはいきません。

公取委はトヨタにも警鐘

 今回、公取委が認定した日産の下請法違反も、日産にとっては慣例化した部品値下げ要求だったに違いありません。しかし、ここ数年は中小企業が占める下請けに対する見方が大きく変わりました。エネルギーコストなど物価が高騰した結果、中小企業の経営は厳しさを増しており、岸田政権は経済界に対し大幅賃上げの原資として中堅・中小企業などの値上げ要求を認めるよう求めています。

 公取委も下請け取引を監視する姿勢を明らかにしています。年間7000~8000件を指導し、勧告も実施しています。22年12月には、値上げを求める下請け企業と交渉しないで取引価格を据え置いたなどの事例として13の企業や団体を公表し、下請けいじめに厳しく対処してきました。

 ちなみに公表された13の企業・団体の中にトヨタ系列を代表するデンソーと豊田自動織機の2社が含まれています。トヨタに対し系列に限らず2次、3次下請けまでを視野に入れて部品の値上げを認めるように警鐘を鳴らしたと見てよいでしょう。トヨタは警鐘に気付き、部品の値下げを停止し続け、賃上げ原資を含めた値上げも認める方針に転換しています。

日産は警鐘を聞き逃し、値引きに頼る

 日産は2022年12月の公取委が鳴らした警鐘が聞こえなかったのでしょう。この1年間、トヨタ以外の部品取引を注視していた公取委に、日産と取引する部品メーカーが公取委に駆け込んだはずです。創立以来90年を迎えた日産はライバルのトヨタとの激しい競争、世界を舞台にした経営戦略、そしてカルロス・ゴーンの経営改革など数多くの経験を積み重ねています。

 しかし、困った時の打ち出の小槌として部品メーカーから利益を吸い上げる経営手法を改めることができませんでした。昔からの慣れきった経営感覚はどんな受難があっても、改められない。「溺れる者は藁をも掴む」といいます。部品メーカーから利益を吸い上げる経営から抜け出せない限り、創立90周年の歴史は単に長い年月が過ぎた事実を語っているだけです。

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