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社外取締役バブルのツケ 小林製薬、トヨタ・・・輝く経歴を背に首を縦に振るだけでは困ります

 小林製薬の小林一雅会長と小林章浩社長が辞任します。紅麹原料を含む同社製品による健康被害が拡大する一方、情報開示が遅れ、厚生労働省を巻き込む混乱に収束の目処がつきません。小林製薬は創業家が経営を握り、独特のアイデア商品でヒットを放つ一方、コーポレートガバナンスについてもいち早く取り組み、充実した社外取締役を揃えてきました。

2010年代に社外取締役ブーム

 しかし、優等生ともいわれれたコーポレート・ガバナンスは機能しませんでした。その背景には社外取締役バブルと揶揄されたlコーポレート・ガバナンスの形骸化があるのではないでしょうか。著名な肩書きを持つメンバーを揃えれば、優良企業として認められる。実際にどう機能しているかどうかは二の次。社外取締役も深掘りしすぎると大火傷しかねないので、議論は寸止めで終えてしまう。こんな”大人の対応”が現状だったら、日本の企業経営は世界から見下されるだけです。

 日本のコーポレートガバナンスに関する改革は2010年代に拍車がかかりました。日本企業の株価が国際的に低い評価にとどまっているのは、収益向上に努めるはずの企業経営者に対する信頼が不足していることが原因と指摘されたためで、東京証券取引所や金融庁は上場企業に経営改革を求め始めたのです。2014年、経済産業省は伊藤邦雄一橋大学教授を座長に「伊藤レポート」をまとめ、企業経営の雛形を公表。2015年6月、伊藤レポートをたたき台にコーポレート・ガバナンス・コードが制定されました。

日本の国際評価を高めるのが目的

 以来、社外取締役の拡充が大流行。株主総会の議案の目玉は社外取締役に誰が就任するのか。当然のようにガバナンス・コードをまとめた伊藤教授に依頼が殺到し過ぎて、代わる候補者を探す苦労が笑い話のように飛び交いました。実際、伊藤教授は多くの上場企業の社外取締役を務めています。

 裏返せば、候補の玉不足が歴然。企業経営の実務に詳しい人材を手配できず、テレビのアナウンサー経験者、五輪メダリストらスポーツ選手を起用した企業もありました。本来の企業経営の監視役よりも、話題性などが重要視されてしまい、いわゆる「社外取締役バブル」。就任する人物も社外取締役の責務を負う覚悟よりも、上場企業の取締役の看板を背負うことに魅力を感じたのでしょうか。

小林製薬は優等生だった

 小林製薬は、コーポレート・ガバナンスがブームになる以前の2007年から伊藤教授と経営改革に取り組んでおり、2013年6月に社外取締役として起用しました。社外取締役は現在、伊藤教授のほかに佐々木かをり、有泉池秋、片江善郎の3氏の合計4人が就任しています。佐々木氏は女性が経営者として活躍する場を広げる先駆的なリーダーとして知られています。有泉氏は日本銀行、片江氏は日立製作所で要職を経験しており、傍目からみても伊藤、佐々木、有泉、片江の4氏の経歴、力量はバランスが取れている陣容です。

 にもかかわらず、なぜ小林製薬の紅麹を巡る経営の混乱、そして経営危機を未然に警告することができなかったのか。外部の弁護士が参加した「事実検証委員会」の調査報告書によると、社長を本部長とする危機管理本部の設置が決められているにもかかわらず、小林社長は危機管理本部を設置していません。毎週開催した経営陣による会議でも被害の発覚後に問題が議題となりましたが、具体的な対応策が議論されていません。報告書は「社長が率先して製品回収や注意喚起の実行という判断をしなかった」と指摘しましたが、この時こそ社外取締役が警鐘を鳴らす瞬間ではなかったのか。

社外取締役は機能不全?

 それ以前からも予兆を感じるチャンスはあったはずです。定期的に開催される取締役会を通じて不可思議な報告内容、食い違い、あるいは説明の稚拙さなど手がかりはどこにあったのではないか。社外取締役のメンバー4人とも、企業経営の実務に精通しています。実際に経営してきた経験から見れば、小林製薬のギクシャクした空気や対応で「何かが起こっている」と察することができる力量を備えている方ばかりです。担当取締役に対し報告や説明の不備を指摘して、問題の根底を解き明かすチャンスを見逃したのでしょうか。

 社外取締役の機能不全は小林製薬だけではありません。ここ数年の株主総会を見ても、海外の機関投資家からコーポレート・ガバナンスの不備を批判される企業が増えています。キヤノンの御手洗冨士夫会長は2年前の株主総会で信任票が過半数ギリギリまで落ち込んだことで驚きが広がりましたし、トヨタ自動車の豊田章男会長も今年6月の株主総会で7割まで低下しました。偶然かもしれませんが、小林製薬もキヤノンもトヨタも創業家出身者が経営の実権を握る大企業です。

 トヨタの社外取締役は今こそ出番ではないでしょうか。トヨタの豊田章男会長はトヨタはじめグループで相次ぐ不正認証問題について多くの誤解を生む発言が続き、トヨタグループを率いるリーダーに相応しいのかどうか様々な意見が飛び交っています。ただ、トヨタの創業家として威光が強く、トヨタ社内で忠言するのは難しいでしょう。会社の椅子を失うかもしれないのですから。

社外取締役は魔除け「赤べこ」と同じ

 社外取締役はトヨタの利害と全く関係ない立場から意見を述べるのが責務です。現在、経産省出身の菅原郁郎、パラリンピックなど障がい者スポーツのサー・フィリップ・クレイヴァン、一橋大教授の大薗恵美、三井住友銀行の大島眞彦の4氏です。大島さんは金融取引関係に支障をきたすのが心配で率直に意見できなければ失格です。菅原さんも文藝春秋のインタビューで話題を振りまくことも大事ですが、トヨタの取締役会で勝負してください。そうでなければ、国際評価を高めるために増えた社外取締役が逆に世界から評価を下げる役割を果たしてしまいそうです。

  もちろん、大半の企業では社外取締役が責務を果たしているはずです。だからこそ、日本を代表する優良企業の社外取締役は、より高い水準を期待されるのです。

 社外取締役というと、福島県会津若松の「赤ベコ」を思い出す時があります。魔除けや疫病除けの縁起物として家に置かれ、子供らの健康を守る祈りが込められているので、子供をあやすように首を振ることができます。その可愛らしい表情がなぜか、取締役会で「ご意見はありませんか」と問われた時に社外取締役がニコッと笑って首を縦に振るシーンと重なってしまったのです。

 社外取締役の本来の責務は経営危機を察し、回避する提言です。企業の魔除け。期待しています。

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