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半導体復権は空回り?製造装置もシェア低下、日本の産業基盤はショート寸前

 日本の半導体産業の地盤沈下が止まりません。国も企業も復権に挑んでいますが、足元が覚束なく明日が見えません。1980年代の全盛期を知っているだけに辛い事実が続きます。もう半導体の産業基盤はショート寸前なのでしょうか。株式市場は人工知能(AI)向け半導体のエヌビディアの業績に一喜一憂していますが、日本の半導体の実力を改めて冷静に見定める時です。

キオクシアが上場

 明るい話題とがっかりしてしまう話題が交差しています。まず希望を託したいニュースから。半導体大手のキオクシアホールディングスが東京証券取引所に上場を申請しました。早ければ10月に上場します。時価総額は1兆5000億円と見られ、調達する資金を使って研究開発や設備投資を拡充し、需要が伸びているデータセンター向けなどを軸に攻めに転じます。

 キオクシアは、主力のNAND型メモリー半導体で世界シェアの10~20%を握っています。2017年、かつて世界に君臨した東芝のメモリー半導体事業を分社化して発足しました。主な出資者は東芝や米投資ファンドのベインキャピタルなどで、24年3月期は2期連続の最終赤字となっていますが、人工知能(AI)などで半導体市況は回復しており、先行きに不安はないと判断したのでしょう。

 キオクシアの提携戦略も加速しそうです。韓国の半導体大手、SKハイニックスは大株主のベインキャピタルを通じて出資しており、上場後に約15%の株を取得する見通しだそうです。昨年まで話題となっていた米ウエスタン・デジタルとの経営統合が交渉が再開するとの憶測も流れています。キオクシアは東芝の半導体技術を継承しているだけに、その技術資産をてこに事業基盤とともに、新規分野を強化するはずです。

半導体製造装置で日本のシェアが低下

 次いで、微かな希望が消えそうなニュースです。半導体製造の前工程で日本の半導体製造装置メーカーのシェア低下が止まりません。2023年の国別の半導体製造装置のシェアで日本は欧州に抜かれ3位に転落しました。米国が40%を超え、欧州は30%弱。日本は20%前後となったようです。

 1990年代から日本は半導体製造装置市場でシェア30〜40%台を握り、米国に次ぐ2位の地位を保持してきました。日本の半導体産業が世界でも頭抜けていたのは、組み立ての後工程のみならず素材から加工する前工程を担当する製造装置の優れたメーカーを輩出していたからです。

 日本の半導体は1980年代、世界シェアの過半を握る世界一でした。その後は韓国、台湾に抜かれ、今や世界では影が薄い存在になってしまいましたが、東京エレクトロンなど前工程のメーカーが世界トップクラスの地位を守り、何とか面目を保ってきたのが最近の実情でした。

復権の戦略を練り直す時

 ところが、日本に最先端の半導体メーカーが消えた結果、納入先に合わせてカスタムメイドする半導体製造装置メーカーの技術力、販売力が落ちてしまい、シェア低下に歯止めがかけられません。露光装置で強さを誇ったニコンやキヤノンにかつての勢いはありません。欧州メーカーがシェアを伸ばした背景も、欧州の共同組合方式による技術開発体制が最先端で、しかもメーカーニーズに合った半導体装置を製品化する「揺籃」となったからです。 

 日本政府は、兆円単位の助成金を投じて台湾TSMCを熊本県に誘致したほか、世界初の2ナノ単位レベルの製品化を目指す日の丸プロジェクト「ラピダス」を設立して、最先端の半導体産業への復権を急いでいます。しかし、2012年2月のエルピーダメモリーの経営破綻以降、日本の半導体産業は韓国、台湾から大きく取り残され、世界の半導体市場の制覇を狙う中国にも追い抜かれそうな窮状に追い込まれています。

 半導体産業は最先端の技術や設備を手元にそろえても、研究開発、生産を支える優秀で経験豊富な人材を多く投入しなければ、生産ラインは動きません。残念ながら、兆円単位の資金だけで復権を果たすことはできないのです。半導体の開発力、生産力の後工程で立ち遅れ、これまで優位にあると思われた前工程の製造装置でもシェアを落とし、その技術力、開発力に翳りが広がれば、日本の半導体産業は足元から地盤が崩れてしまいます。

 改めて復権の戦略を描く直す時です。米国と連携した経済安全保障を声高に掲げ、巨額資金を投じても、半導体産業が息を吹かすことはありません。

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