• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。
  • HOME
  • 記事
  • ZERO management
  • テスラは感電死するのか イーロン・マスクが狂気に翻弄され、ディスラプターは白日夢に

テスラは感電死するのか イーロン・マスクが狂気に翻弄され、ディスラプターは白日夢に

 米国でテスラの店舗に入った途端、エンブレム「T」が刻み込まれた長方形のシンボルが目の前に現れ、立ちすくんだ経験があります。映画「2001年宇宙の旅」の冒頭に登場するモノリスと重なって見えたのです。

2001年宇宙の旅のモノリスと重なる

 映画を製作したスタンリー・キューブリックとアーサー・C・クラークは人類が科学技術、人工知能、地球外生命体など未来に出会う進化の過程をモノリスに投射していました。

 製造業の歴史を鳥瞰すれば、テスラはまさにモノリスです。2000年代初頭、欧米や日本など世界の自動車メーカーが実用化はまだまだ先と考えていた電気自動車(EV)に果敢に挑み、世界に先駆けて量産に成功しました。幸運にも2008年に創業者の1人であるイーロン・マスクがCEOに就任した頃から、七転八倒する様子を目撃してきただけに、テスラ、そしてイーロン・マスクが世界の自動車メーカーの期待を裏切る形で大成功した事実に論理的に説明ができない神秘性が秘められていると感じたものでした。

 テスラの経営を説明する言葉は「熱狂」の2文字に尽きます。自動車産業の常識を大きく逸脱する開発や設備投資は、まるでイーロン・マスクの狂気を感じさせました。独裁と横暴の言葉が飛び交うテスラに嫌気を刺して経営幹部が次々と離脱。世界初の自動運転を目標に定めたものの、多くの事故が繰り返されます。にもかかわらず、テスラはアクセルを踏み続け、加速し続けました。会社名の由来でもある科学者ニコラ・テスラと重なります。

 しかし、自動車メーカーの経営は科学者の実験と違い、現実を解析し、回答を発見する冷静な目も不可欠です。狂気から目を醒めたとはいえ、経営者の手には熱気がなければ未来の扉は開けません。テスラは狂気と熱気の両極を振り子のように行き来しながらも、着実に進化するエネルギーを生み続ける「熱狂」に包まれていたと考えています。当時のイーロン・マスクには使い分ける才がありました。

経営は狂気に翻弄されたら崩壊

 しかし、熱狂が狂気と熱気に解離し、経営者が狂気に翻弄されてしまったら、企業経営は崩壊します。

 2025年1月、イーロン・マスクが経営者の責務を忘れ、トランプ政権で政府効率化省(DOGE)のトップとして入閣。政府職員を容赦無く解雇する一方、巨額資金を提供して勝利に貢献したトランプ大統領とも結局は袂を分ちます。

 狂気から覚めないイーロン・マスクは消費者から見放されます。イーロン・マスクの過激な政治的な言動は、欧米で不買運動が広がっており、5月にトランプ政権から離れた後も販売は回復せず、四半期ベースで2期連続で2桁台の減少となりました。4月から6月まで3ヶ月間の販売をみても、前年同期比13%も減少し、38万4000台に落ち込みました。

「石もて追われる」とはこういう時に使うのでしょう。トランプ大統領はEVの推進政策を廃止へかじを切ります。イーロン・マスクの巨額献金がなければ大統領選に勝利できなかったとまでいわれましたが、政敵となれば容赦しません。トランプ大統領はマスク氏が若い頃に不法就労したとの情報を片手に「補助金がなければ店をたたんで、南アフリカに帰らなければならないだろう」と脅しています。

 大統領の脅迫はスペースXにも及びます。米政府と交わした220億ドルの契約を取り消すとの情報がリークされています。米宇宙開発はNASAが一時期の力を失い、スペースXが支えているだけに簡単に取り消しできるとは思えませんが、合理的な判断よりも政敵を追い落とすことを最優先するのがトランプ大統領です。予断は許されません。

時代を変えるのは誰か

 テスラ社内にも動揺が広がっているようです。テスラがEVに続くプロジェクトとして力を入れている人型ロボット「オプティマス」プログラムのエンジニア責任者ミラン・コバック氏が6月、退社しました。退社の理由は家族との共に過ごす時間を増やしたいためと説明しますが、果たしてどうでしょうか。優秀な人材が流出したら、世界をリードしたテスラは一転、泥船と化します。

 イーロン・マスクは世界の産業史を変えるディスラプターとして注目していました。破天荒ともいえる時代の破壊者ですから、尊敬する思いはちょっとだけ。でも、誰もできないことをやってしまう破壊力には魅了されてきました。日本にもこれぐらいの破壊力がある経営者が登場しないかと期待しましたが、儚い夢であることはわかっていました。狂気から覚めないイーロン・マスクがテスラを感電死させてしまうことになったら、ディスラプターが閉塞する時代を変える夢は米国でも白日夢で終わるのでしょうか。悲しいですね。

関連記事一覧