予想通り、リーダーが消えたトヨタグループ 覇者が自ら迷路に入る
予想通りの展開でした。トヨタ自動車の豊田章男会長です。無言実行とは逆。有言不実行の典型例ですね。豊田自動織機の株主総会に出席すると明言しながら、当日すっぽかしました。日本を代表する企業のトップでありながら、内実は親しい友人らを周囲に固め、頭は自動車レースのことでいっぱい。創業家出身を後ろ盾にトヨタグループのリーダーとして振る舞いますが、自らの権威を守る振り付けに四苦八苦。無理を重ねるので、ボロも出ます。トヨタ本体も含めたグループで相次ぐ不正認証は、図らずも豊田会長の素顔も暴いてしまったようです。
豊田自動織機の株主総会をドタキャン
「多くの関係者に多大なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ない」。豊田自動織機の定時株主総会で謝罪した伊藤浩一社長の声は虚しく響いたのでしょう。なにしろ、親会社トヨタの豊田会長は1月末の記者会見でグループ17社の株主総会に株主としてすべて出席する意向を示したにもかかわらず、会場には豊田会長の姿が見あたりません。豊田自動織機はトヨタ発祥の企業。グループの名門企業でありながら、エンジンの不正試験が発覚し、日野自動車、ダイハツ工業と続いた不祥事に名を連ねました。
トヨタグループでは2022年から日野自動車、ダイハツ、豊田自動織機と不正試験などが相次いで発覚。グループを率いる豊田会長のガバナンスに疑問の声が増えたこともあって、豊田会長は2024年1月に不正再発の防止に向けてグループ企業の意識改革に力を入れると宣言しました。その一環としてグループの主要17社の株主総会に自ら出席し、課題を確認するとしていました。こうした意向もあって株主総会の季節を迎えた6月、トヨタ自動車、アイシン、デンソー、日野自動車などは株主総会の開催日が重ならないように調整していました。
半年前の発言を反故に
ところが、参加すると宣言した当の本人がドタキャン。その理由として「年に1度の株主と企業の対話の場で、(会長)自身が出ることで変化が起きるのは得策ではない」と豊田会長は判断したそうです。株主総会は年に1回開催し、株主が投資した企業の経営状況、考え方を確認、あるいは疑問を解く場です。豊田会長が出欠するかどうかで株主総会の運営に支障が起こるはずもありません。
影響があると判断した根拠は何でしょう?トヨタのグループ企業は豊田会長の出席で何かしらの忖度をするのでしょうか。それとも株主総会で豊田会長のガバナンスに対する批判の声を聞きたくなかったのでしょうか?あるいは6月に入ってトヨタ本体でも不正認証が明らかになり、自らの体面を気にしたのでしょうか。2023年11月にはジャパンモビリティーショーでタレント「マツコ・デラックス」とのトークショーに出席したのに、もっと大事な株主総会をドタキャンするとは予想もしませんでした。
親会社のトップが株主総会に出席すると大見えを切ったのに約束をすっぽかす。上場企業として軽率だと批判されても仕方がないでしょう。ただ、予想はしていました。豊田会長は、グループの不正試験の重要性を認識しているとは思えず、他人事と捉えていたと受け止めていたからです。
レースのワンピでダイハツ不正を語った時にわかった
ダイハツの不正認証が明らかになった時がその良い例です。2023年12月、第三者委員会による不正を引き起こした調査報告書が公表されました。トヨタグループのトップである豊田会長はタイで開催された10時間耐久レースの予選終了後、記者会見に登場しました。トヨタ主催のモータースポーツイベントでドライバー「モリゾウ」として走った後、レース用ワンピースを着たまま、ダイハツの不正に関する記者会見に臨んだのです。
自動車メディアのネットサイトに次のようなコメントが掲載されていました。
なんとか前を向いて自立できるように応援をしていきたいと思うので、一度お時間をいただけないでしょうか。トップが何かを発言しただけで、何十年も続いた会社のカルチャーを変えることはなかなか難しいと思います。
レース用のワンピを着ながら、まるで経営評論家のような言葉が続きました。トヨタグループは、トップの指示がすぐに現場まで伝わる組織力が強さの根源です。親会社が子会社に対し「なんとか前を向いて自立できるように応援していきたい」という関係ではありません。まして「トヨタの創業の精神」を2009年の社長就任以来、説き続けてきた豊田会長です。
ダイハツは生産停止に追い込まれ、部品納入などで経営に打撃を受ける企業は8136社に及んだそうです。日本経済にとって無視できる数字ではありません。耐久レースを終えた後、イベントの話題に挟んでダイハツの再生について発言する感覚が理解できません。
トヨタ自らの不正認証は国際基準でも不正
豊田会長の言動をさらに信用できない事実が明らかになりました。型式指定制度に必要な認証試験で不正が明らかになった時、トヨタは国土交通省の基準より厳しい条件で試験しており、安全性に問題がないと説明し、「(認証制度と実態に)ギャップがある」と語り、見直しの必要性についても言及しました。
しかし、国交省の認証制度はほぼすべて国連基準と合っており、この基準に違反すれば国際的な相互信頼主義を損なうことがわかりました。世界基準と異なる実験で得た結果が信用されるわけがなく、まして日本だけが違う試験をやって良いわけがありません。豊田会長は自ら天に唾し、トヨタの信頼を貶めています。
世界一の自動車メーカーの座に上り詰め、ハイブリッド車の大ヒットで2023年3月期で5兆円超の営業利益を稼ぎ出し、覇者の地位を固めたトヨタです。残念ながら、トヨタグループを率いるトップは、これから走る道路を間違え、迷路に入り込んだそうです。ドライバーとして信用できるのでしょうか。