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豊田会長選任に米助言会社が反対 早川、小林両氏の存在が教える「変わる気がないトヨタ」

 米国の議決権行使助言会社2社がトヨタ自動車の豊田章男会長の取締役選任議案に「反対」を推奨しています。日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機の有力グループ企業による不正認証が相次ぐ背景としてトヨタグループを率いる豊田会長の経営責任を見逃せない。さらに豊田会長は企業文化を変えると唱えているものの、実際は変革の姿勢が見えないと判断しています。冷静に直視すれば現在のトヨタから誰もが感じる違和感です。なぜ豊田会長は変わらないとわかるのか。その意思を物語っているのが経営陣に要として存在する早川茂、小林耕士両氏です。

「変革の姿勢が見えない」と判断

 反対を推奨する米助言会社はインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラスルイスの2社。グラスルイスは「取締役会が十分に独立性を保っていない」と捉え、豊田会長と共に早川茂副会長の再任案についても「その他のガバナンス(企業統治)上の問題」を理由に反対を呼び掛けています。

 豊田会長の選任反対は初めてではありません。トヨタの昨年6月の株主総会では、グラスルイスが反対を推奨し、米公的年金基金カルパースが反対票を投じました。豊田会長の選任賛成は全体の84・57%。前年の95・58%から10ポイントも減少しました。今年6月の株主総会ではISSも反対推奨に加わり、前年よりさらに選任に対する賛成は低下する可能性があります。

 なにしろISSは実績があります。昨年の株主総会でキヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長の選任提案に対し、女性取締役が皆無を理由に反対を推奨。この結果、御手先会長への選任賛成が50・59%となんとか過半を占め、創業家出身の御手先会長をクビ寸前にまで追い込みました。キヤノンは女性の社外取締役を加え、今年の株主総会に備えました。

豊田会長の言動はトヨタイムズで参照を

 豊田会長の経営手腕については、このサイト「From to ZERO」で様々な視点から繰り返し描いています。興味がありましたら、サイト内で検索してみてください。ISS、グラスルイスの助言はまさに同じ視点です。2022年3月に発覚した日野自動車のエンジン不正認証が発覚してから続く一連の不正事案に対する豊田会長の言動を追えば、納得するはずです。トヨタ自身が制作しているメディア「トヨタイズム」をご覧ください。直近のトヨタグループの経営改革に関する考え方が掲載されています。

 トヨタイムズだけでなくテレビのCMを通じて熱く変革を唱える豊田会長の思いが、外部から見てなぜ本気と受け止められないのか。その手がかりは豊田会長をすぐそばで支える2人の存在から紐解くのがわかりやすいと思います。早川茂副会長と小林耕士番頭・エグゼクティブフェローです。

 早川茂副会長。グラスルイスが豊田会長と並べて再任に反対しています。1977年にトヨタ自動車販売に入社し、海外・広報畑を長く経験しています。豊田章男氏が若い頃から脇で支えて全幅の信頼関係を築き、順当に役職を重ねて2017年4月にトヨタ副会長、翌月の5月には経団連副会長に就任しました。副会長就任の狙いには広報、オリパラを含むスポーツなど社会広報全般を仕切るとともに、当時の豊田社長に代わって財界など対外活動の全責務を背負うことにあるのがよくわかります。豊田社長・会長の思いを語る代弁者、あるいは影といえるでしょうか。

早川副会長は豊田家の代弁

 早川さん。トヨタの取材を通じて広報部時代からよく知っているので、思わず呼んじゃいそうです。トヨタの広報部は1970年代から80年代までは「強面」のキャラクターでした。トヨタは高度経済成長期の日本をリードする大企業でしたが、排気ガスなどによる大気汚染、自動車輸出による貿易摩擦など日本を代表する大企業として批判を浴びる一面もありました。広報部の使命は企業イメージを高めることより、守り続けることにありました。取材先としては手強いものの、攻め手がわかりやすい相手でした。

 早川さんは違いました。人当たりはよく、ぶつかることはありません。新聞・テレビ、記者の癖をしっかり見極め、相手が求める情報を提供します。「トヨタの広報部は変わった」と多くのマスコミは思い込みます。それは勘違いでした。トヨタの深い懐に取り込み、トヨタの情報を発信する巧みな戦略に転じただけでした。

 創業家豊田一族への食い込みも流石でした。奥田碩さんら非創業家出身の経営トップに反発する豊田章男さんの思いを汲み取り、章男社長が誕生した2009年以降は奥田さんら非創業家出身者の情報をピタリと抑え込みます。「豊田家が忌み嫌ったトヨタ自動車販売出身者で唯一生き残っただけある」とあるトヨタグループの社長は苦笑していました。

小林番頭は豊田会長のメンター

 もう1人の小林耕士さんは、なんと表現すれば良いのでしょうか。豊田章男さんがトヨタ入社当時に上司として出会ったのが接点ですが以来、精神的な成長やサポートを助言する「メンター」となっているようです。1948年10月生まれですから、豊田会長よりも8歳上。1972年にトヨタ自動車工業入社し、2000年にはトヨタファイナンシャルサービス、2003年からはデンソーへ。2009年に豊田章男さんが社長に就任してからはとんとん拍子。2018年1月にはデンソー副会長、トヨタ副社長に就任、いずれも代表取締役の大抜擢です。異例の人事です。豊田社長との近さは明快です。

 現在の肩書きは番頭・エグゼクティブ・フェロー。ハイブリッド車を世界で初めて開発した主査を務め、トヨタ会長を経験した内山田竹志さんと同じ肩書きです。ハイブリッド車は5兆円の利益を稼ぎ出すほどトヨタに貢献しています。失礼ながら、小林さんと内山田さんが同列とはちょっと理解し難い事実です。

 正直言って記者から上がってくる評価は良くありません。小林さんはトヨタ社内、グループ内に情報網を張り巡らし、豊田章男さんの求心力を守っている。こんなイメージのネタばかりが舞い込んできました。しかも、肩書きにあえて「番頭」を加えています。創業家の店主を守り、業務を仕切るのは小林番頭であると社内外に告げているのです。

次の社長の道筋も描く

 実際、小林さんの他の肩書きを見ると、静岡県裾野市で進める実験都市「ウーブンシティ」の事業主体、ウーブン・バイ・トヨタ監査役を務めています。ウーブンシティのプロジェクトには豊田章男さんの長男大輔さんが深く関与しており、将来のトヨタ社長への布石と見られています。小林さんは息子さんのメンターとしての役割も担っているのかもしれません。

 トヨタ自動車、グループ企業全体を見渡して、豊田章男会長が一手に握っていることがよくわかると思います。2023年4月に佐藤恒治社長が誕生しましたが、トヨタを支配しているのは誰かはそれこそ誰でもわかります。豊田社長・会長を支えた2人が引き続き、経営陣の要として存在しています。今後も、豊田家が握り続ける歴史の道筋もすでに描かれています。早川、小林両氏の存在をちょっと考えただけで以上の通りです。ガバナンスを厳しく監視する米助言会社が、変わる意思がないと判断し、豊田章男会長らの再任に反対推奨するのは至極当たり前のことです。

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