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三菱Gは国と背中合わせ、重工は防衛、商事はエネルギーで日の丸を背負う 

 「三菱重工業は絶対に安全な投資対象なんですよ。なんたって国がバックアップしているからね」。トランプ関税で株式市場が混沌としているニュースを眺めていたら、三菱重工の株式を保有する50歳代の夫婦が自信を持って話していたのを思い出しました。株の値上がり益は最初から期待しておらず、老後の生活を支える安全な資産として三菱重工株を少しずつ積み増しているそうです。

 明治の富国強兵政策を支えてきた三菱財閥です。戦前の軍事産業に深く関わっており、戦後の経済復興でも常に主役の座を占めてきました。ソニーやホンダが放つ華やかさをあえて抑えて質実剛健を貫き、事業基盤は盤石そのもの。

 代表格は三菱重工、三菱商事でしょうか。国が仕掛けるビッグプロジェクトに必ずと言って良いほど登場します。国の事業と背中合わせで歩む三菱グループの安定感を改めて実感します。

株式は値上がり益よりも安全資産

 三菱重工。日本の機械産業の頂点に立ち、造船、大型機械、発電、戦車など、なんでも製造できる会社です。営業利益率は高くはありません。1兆円の日の丸プロジェクトだった国産ジェット旅客機の失敗もあって低水準が続いていましたが、2025年度は10%をめざすまで回復しました。高配当や上昇率を期待する株式として選ぶなら、ハズレでしょうね。

 でも、倒産する心配は不要です。利益は出なくても、仕事はかならず受注するというか、舞い込んでくる。あるいは国と一緒に創り出しているという表現が正確かもしれません。業種は機械産業に分類されますが、事業の軸足は日本を支えるインフラに置かれています。1980年代、東京湾アクアラインの建設計画が具体化した時、「文字通り、東京湾の水面下で国と練り上げてきた」と感慨深げに話す三菱重工関係者を知っています。

 航空・防衛・宇宙の事業部門はもっと国と一心同体。売上高、受注高の比率はさほど大きくありませんが、防衛省から直接受注するプライム企業として防衛予算が確実に舞い降りてきます。直近では、防衛省が計画する新型ミサイル計画の開発を受注しました。敵の艦艇や地上の目標を攻撃する新しい地上発射型ミサイルの開発計画は323億円余り。情報収集衛星や無人航空機などと連携した反撃能力の要です。台湾有事を想定した防衛能力の増強に合わせて予算は増える方向ですから、ミサイルを軸に関連事業の裾野は広がるでしょう。2025年3月期は前期比20%増の9500億円を見込んでおり、27年3月期には防衛事業は1兆円規模になると期待しています。

 三菱グループには事業に失敗しても国の支援があります。三菱商事の洋上風力事業がわかりやすい。経済産業省は今年1月、洋上風力発電の事業公募に関して、建設コストの上昇が事業採算を悪化させていると判断。従来の価格を固定する買い取り制度から、資材コストの上昇分を電力価格に上乗せできる制度へ変更する方針を決め、次回の公募から適用することにしました。ところが、4月に入ってすでに落札した案件にも制度変更を適用する方針を加えました。

洋上風力発電で支援

 制度変更で誰が助かるのか。三菱商事です。子会社の三菱商事洋上風力を中心にした企業連合は秋田県や千葉県の3海域で洋上風力発電の建設計画を進めていましたが、2月に入って突然、ゼロベースで事業を見直すと表明しました。国の洋上風力発電事業の「第1ラウンド」と呼ばれる公募事業で、総額1兆円に迫るビッグプロジェクトです。三菱商事はライバルが採算割れと批判するほど割安な条件で落札しましたが、インフレや円安などで輸入する風車などのコストが上昇、採算が合わなくなったと判断しました。三菱商事は事業見直しに合わせて522億円も減損処理しました。 

 自業自得とも思えますが、次回から適用すると表明した制度改革が前回公募まで遡って変更するのですから息を吹き返します。法律は不遡及が原則ですが、政策ならOK?日本経済新聞は、事実上の救済策とみる業界関係者は多く、怨嗟の声が広がっていると伝えています。

 入札制度は落札した条件で事業を遂行するのがルールです。たとえ事業環境が大幅に悪化したとしても建設するのがビジネスの常識。大手ゼネコンが採算度外視の落札が原因で大幅赤字に陥る例をよくみかけます。ところが、三菱商事の洋上風力事業の場合、経産省が買い取り制度そのものを変更してしまう。後出しジャンケンが可能なら、失敗する事業も成功に転じます。

 三菱商事は、インスタントラーメンからミサイルまでと揶揄されるほど幅広い事業を手がける総合商社のトップです。世界的な投資家、バフェット氏が最近、最も気に入っている株式銘柄の一つです。三菱商事は農産物などの調達で日本の食を支える一方、石油・ガスなどエネルギー投資を拡大して資源小国の日本を支えてきました。通産省時代から進めてきた日本の産業政策を背負ってきたのと言って良いでしょう。三菱商事が困ったら支援する。「魚心あれば水心」。言葉にしなくても経産省には相通じるのです。業界が嫉妬するのも不思議ではありません。

一見、無関係に見えるが相通じる

 「背中合わせ」には仲が悪いという意味もありますが、背中合わせの関係を続けられるほど仲が良いと理解することもできるそうです。一見、お互い無関係を装っていますが、実は相通じている。三菱グループを理解するキーワードの一つです。

◆写真は三菱洋上風力のホームページから引用しました。

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