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5兆円が教えるトヨタの病巣 HV帝国は内弁慶 欧米・アジアに脆さ

 営業利益が5兆円を超える。売上高でも滅多に見かけない数字ですが、それが営業利益。1980年代、トヨタ自動車が純利益で2000億円を計上した時、当時の豊田英二会長が取引先から「売上高2000億円を超え、おめでとうございます」と挨拶されたと苦笑したエピソードを思い出しました。以後、トヨタは世界のTOYOTAへまっしぐら。5兆円を超えた今のトヨタは、どう進化するのか。数回の連載に分けて妄想してみました。

営業利益は日本初の5兆円超え

 5月8日に発表した2024年3月期決算で、営業利益は5兆3529億円を計上し、日本企業で初めて5兆円を超えました。前期比でほぼ倍増。純利益も4兆9449億円と2倍超。北米や欧州を中心にハイブリッド車(HV)の販売が好調だったほか、為替レートが円安基調で推移したこともあって予想を大きく上回る増益を達成しました。凄いですね。完全子会社のダイハツ工業はじめ日野自動車、豊田自動織機などグループ企業の不正認証でトヨタグループ全体が揺れ動きましたが、頂点に立つトヨタの決算は数字上、盤石でした。さすがです。

 営業利益の内実をみると、拍手喝采とはいきません。決算発表する佐藤恒治社長が妙に硬かった理由かもしれません。営業利益を地域別で見ると、歪な構造が歴然と現れます。営業利益の65%に相当する3兆4862億円は日本で稼ぎ出しています。前期比45・4%増です。利益を稼ぎだす源泉である販売台数は199万3000台、前期比3・7%減。販売台数が前年割れしているのもかかわらず、大幅な利益増を果たしました。日産自動車やホンダなどライバルが弱いこともありますが、トヨタの販売網の頭抜けた強さを見せつけられます。

営業利益の65%は日本で稼ぐ

 過去最高の利益を稼ぎ出した牽引とされた欧米はどうでしょうか。北米は販売台数が17%増の281万6000台と2桁の伸びを記録しました。営業利益は5249億円と前期の7倍も増えました。欧州は15・7%増の114万9000台、前期の7・2倍の4079億円。北米も欧州も前期比の伸びは7倍で揃います。EV(電気自動車)が頭打ちとなり、代わってハイブリッド人気が広がったうえ、値上げが浸透したため、利益全体を底上げしました。

 日本車の牙城のアジアは?販売台数は3・0%増の180万4000台、営業利益は22・4%増の8727億円。こちらも文句のつけようがないでしょう。

 ところが、営業地域別に1台あたりの利益貢献をみると、日本が突出し過ぎています。ちなみに比較する指標は独自に考案しました。販売台数の千単位以下を切り捨て、残る4桁を営業利益で割ってみたのです。例えば、日本の場合、販売台数199万3000台、営業利益3兆4862億円ですから、「1993」で「34862」を割ると17・5という数字が答として出てきます。営業地域の利益は現地生産や為替変動などで左右されており、単純な比較に難があるのはわかっていますが、わかりやすい指標として試してみました。台あたり利益貢献と呼んでみます。

1台あたりの稼ぐ力は日本が突出

 改めて地域別に比較してみます。営業利益の過半を稼いだ日本は1台あたりの利益貢献が17・5でしたが、同じ計算式で北米や欧州、アジアを割り込んでみます。なんと北米は1・8。日本の10分の1。欧州は3・4で、それでも5分の1。日本車の金城湯池のアジアでも4・8。

 日本の稼ぐ力は半端ないです。日本にはトヨタの主力工場があり、国内販売だけでなく海外輸出しています。見かけ上の利益は他の地域より大きく現れるのは当然です。日本が儲け過ぎというつもりは全くありません。世界一の自動車メーカーとなったトヨタは、海外生産など世界戦略でも他を圧倒していますが、トヨタの強さは日本発であることを改めて認識した次第です。

 ただ、1980年代のホンダは日本に主力工場を持ちながらも、利益の過半は米国で稼ぎ出していました。その米国での稼ぐ力を衰えてしまい、つい最近まで4輪事業そのものが利益が出ない窮地に追い込まれました。トヨタがホンダの二の舞を演じるとは思いませんが、日本に大きく依存した利益構造の危うさを忘れるわけにいきません。

トヨタの強さを支える日本が衰退したら

 5兆円を稼ぐ構図は、日本という優れた開発・生産拠点、そしてトヨタが先鞭をつけたハイブリッド車の2つを抜きに描くことができません。残念ながら、その日本の強さは衰退し始めています。少子高齢化によって人口減のみならず生産人口も減り続け、国内の新車需要は縮小することがあっても伸びることはありません。もっと深刻なのは開発・生産を支える人材の確保。苦労するでしょう。トヨタの強さを最大限に引き出す日本が弱ったら、盤石と思われた5兆円の構図はぼやけてしまいます。

 足踏みしているとはいえ、ハイブリッド車からEVへの移行は止まりません。北米や欧州のハイブリッド車人気がいつまで続くのか。アジアではすでに中国製EVが旋風を巻き起こしています。中国市場では低価格EVが増勢していおり、日本車の販売減は釣瓶落としのようです。絶対的な強さを見せていた東南アジアですら、日本車のシェアは低下し始めています。

 トヨタがハイブリッド車の強さで築き上げた世界一の座はまさにハイブリッド帝国と呼ばれるでしょう。日本が衰退し始める一方で、海外で再びEVが盛り返し、ハイブリッド車の消費期限が迫ってきたら、どうなるのか。すでに帝国の強さは揺らいでいるのかもしれません。佐藤恒治社長はすでにその揺らぎを感じているはずです。

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