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秋田の自販機うどんにもインフレの波 1杯350円、値上げは苦いけど味は旨いまま

 秋田市に向かう国道7号線を車で走っていたら、フロントガラスの向こうに爪楊枝を1本差し込んだのような高いビルが視野に入ってきました。高さ143メートルのポートタワーセリオンでした。太陽の光を跳ね返して輝くガラス張りのビルを見たら、あのうどん、ひさしぶりに食べなきゃ!」。NHKのドキュメント「72時間」で全国に知られた「自動販売機のうどん」です。

NHK「72時間」で全国に知られる

 自動販売機のうどんは「秋田道の駅あきた港セリオン」にあります。この道の駅、なかなか風景がシュール。風力発電機の風車が日本海に面した海岸線にずらりと並び、すぐ近くの港に停泊する貨物船と二重写しとなる風景を眺めることができます。映画「ブレードランナー」の街を昼間に歩いている感じです。そういえば、あの映画の好きな場面もうどんでした。主役のハリソン・フォードが昭和の屋台をコピーしたかのようなお店に座り、何かを注文すると、店主「2つで十分ですよ」と日本語で繰り返します。出てきたのはうどん1杯のどんぶり。意味不明のやりとりですが、見るたびに昭和の屋台が恋しくなります。

道の駅から秋田港を望む

 マイカーを道の駅の駐車場に置き、ビルのエントランスに向かうとしっかりと待ち構えていました。看板です。「懐かしのうどん そば、自販機 営業中」。以前に訪れた時と同じ看板かどうかはわかりませんが、デザイン、カラーは変わりません。ビルに入ると、植物園のような雰囲気の空間が広がっており、左手に自販機がありました。場所は変わっていません。お客さんが並んでいるのかなと予想していましたが、ガランとしています。

価格は3割ほど値上げ

 自販機の前に看板が何枚も並んでいます。まず「金坂の麺を使用している」の看板が目にとまり、どんな麺?と疑問を眺めたら価格改定のご案内が。「300円→350円」。2024年6月1日からと告知しています。もう6月中旬でしたから、1杯350円。以前食べた時は200円か250円。(ごめんなさい、忘れました)小麦粉も電気代も油もすべて値段が上がっているご時世です。価格は上がっていると思っていましたが、100円なら3割ほどの値上げ。仕方がないです。

6月1日から1杯350円に

 自販機はお釣り銭が出る仕組みではありません。小銭入れに350円あるかどうか確認していたら、若い男女2人が自販機に向かい、食べようと硬貨を入れましたが、釣り銭が出ないとわかり、諦めて帰って行きました。最近は電子マネーやナントカPayを使うので、きっちり350円を持っている人は少ないはず。結構、販売機会を損失しているんじゃないかと心配していたら、自販機のうどん・そばを補充するためにお店の男性が来ました。「すいません、今買いますから」と告げ、350円を投入して天ぷらうどんを選び、自販機下段にある長方形の窓口にジャンと登場する瞬間まで待ってもらいました。

 天ぷらもうどんもおつゆも旨い。「本当に旨いなあ」と呟きながら食べていると、お店の男性は「今日は平日だけど、よく出ているんだ」と話しながら、自販機を鍵で扉を開き、詰め替え作業を最初から最後まで見せてくれました。扉か観音開きになると、うどんとそばのプラスチック製どんぶりが上から下まで何層にも分かれて納められているのがわかります。

うどん・そばの補充作業

 お店の男性は運んできたトレーからうどん・そばの上に天ぷらが載った状態のどんぶりを手際よく自販機に詰め込んでいきます。後はお客さんが硬貨を投入すれば、おつゆがどんぶりに流し込まれ、ユッサユッサと動いて一丁上がり。「今日は80杯ぐらいいくんじゃないかなあ」と笑いますが、「この機械はもう50年も経っているからねえ」といつ壊れてもおかしくないという表情をみせます。なんか淡々としている表情がとても印象的です。機械って壊れそうで壊れないのかもしれません。テーブルに自販機のうどんの看板を模した小皿があるので「これ売っていないんですか?」と訊ねると、「売っていないよ。時々、無くなっている時もあるけどねえ」と苦笑します。

時々、持ち去られるそうです。

 NHKの「ドキュメント72時間」で紹介されたのが2015年12月末。番組の人気投票で第1位になったほど、番組の中身は素晴らしかった。ロケの舞台となったお店は2016年3月末に閉店となりましたが、翌月の4月には道の駅に移転して再開しました。ちょうど運良く秋田を訪れる機会がありましたから、立ち寄ったら、長蛇の列でした。あれから8年過ぎました。値段は350円になっても、近くを通ったら食べていこうと思う味です。旨かった。それにしても「あの小皿、欲しかったなあ〜」。

2016年4月は長い列

 

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