悲願達成、猿払産ホタテを食す 味が濃くウマ!! 中国禁輸のおかげ!?

 いつかは食べてみたい。長年、願っていたホタテがありました。北海道最北端の宗谷岬からオホーツク沿岸へ30キロほど南下した猿払(さるふつ)村で漁獲したホタテの貝柱です。高品質で知られ、大半は「干し貝柱」「冷凍貝柱」になって中国へ輸出されます。「干し貝柱」は中国料理の高級素材として売られており、なかでも猿払産は珍重されているそうです。その人気の高さから高価格で取引され、猿払村の漁業者は北海道でも高所得者が多いことでも有名です。北海道や青森県で育ち、ホタテをよく食べてきましたが、猿払産のホタテは見かけたこともないですし、もちろん味わったことはありませんでした。叶わぬ悲願と諦めていたのですが、突然、それが達成できたのです。

北海道食材のカタログで見つける

 定期的に郵送される北海道食材の販売促進パンフレットがきっかけです。北海道ならではの魚介類やバター、チーズなど乳製品を食べたくなった時、東京・八重洲の地下街にある「北海道フーディスト」へ向かいます。北海道の食材を紹介するアンテナショップというよりは、ネット通販も手がける本格的な販売会社で、サッポロビールが北海道でしか発売しないと宣伝している「クラシック」はいつでも購入できますし、入手が難しい「厚岸ウイスキー」なども抽選販売しています。東京に居ながら、北海道の美味しいものが手に入ります。

 その北海道フーディストから年末が近づいたせいか、「冬ギフト直送便」が郵送されてきました。同封されていたカタログを眺めていたら、「宗谷・さるふつ産天然ほたて貝柱(無選別)」と書かれた商品があります。「オ〜オ〜、さるふつ、見つけた」と思わず声が出て、目玉がロックオンしました。

カタログに掲載された写真に、思わず○印

 カタログには、約1キロ5500円とあります。もともとホタテが好きですから、生協などを通じて北海道産のホタテをたびたび購入していましたが、ここ2年ぐらい価格は急騰しており、大粒で品質の良いホタテはとても1キロ5500円で手に入りません。高品質で知られる猿払産のホタテですから、むしろ割安に感じたほどです。

高価格ですが、猿払産は割安に感じる

 ”入手困難で高価なホタテ”が割安に手に入るきっかけは、中国政府の禁輸です。東京電力の福島第一原子力発電所の処理水放出の影響で日本の魚介類は中国へ輸出できません。中国向けホタテの大半は北海道産ですから、北海道経済に大打撃です。テレビや新聞などで輸出できずホタテが在庫の山となっているとのニュースを見るたびに、小さい頃からお世話になっている北海道の水産業に少しでも手助けできればと思い、いつも以上にホタテを食べる回数を増やしていました。

 決して手軽に購入できる価格ではありませんが、猿払産ホタテが食べられるチャンスが目の前にあるのです。ためらわず注文しました。数量は2キロ。クール宅急便1100円も加わりますから、かなり気合が入る決断です。でも、見逃すわけにはいきません。

 北海道の漁業者の皆さんの立場になれば、本来ならより高価格で中国へ輸出できたホタテを在庫の山にするよりは、国内消費に回すために価格を抑えているのかもしれません。予想もしない禁輸措置で打撃を受けている漁業者の皆さんに申し訳ないと思いまながら、少しでも禁輸の打撃を小さくできるならとホタテを食ベることにしました。

味は濃く、歯応えは十分。オホーツクの海が口内に

 届いたホタテは無選別とありましたが、大粒が多く、品質に全然不満はありません。冷凍で1年間は保存可能とありましたが、無論すぐに食べます。自然解凍で丁寧に元に戻して食卓に並べ、その脇には好きな日本酒と使い慣れた杯を置きます。ホタテは生のまま食べますが、包丁は入れず粒そのまま食べます。居酒屋などでは薄切りの刺身で出しますが、あれではホタテ本来が持つ味が半減以下に低下します。

 海の養分でギュッと筋肉の塊となった貝柱には、育った海のすべてが凝縮されています。醤油にも浸けません。生わさびは少々。箸でも手でも好きな道具を使って粒のまま口へ放り込み、ガブリ。噛み締めると育った海の香りが鼻先にも伝わり、後は「うめぇ」と唸るだけです。

 猿払産のホタテは弾力が強く、噛み応えは十分。味は濃く、噛むたびに味がジワッと伝わってきます。味わいは違いますが、チーズの塊を齧る感覚に似ています。「ウヒョー」と笑い声が思わず出てしまいました。もちろん、日本酒はいつも以上にうまい。ホタテが育った海の塩が日本酒を引き立てます。「こりゃ、ヤバイ」と思いながら、ホタテを立て続けに食べ、日本酒を飲み、まさに醍醐味の時間を過ごしました

まだ1キロが冷蔵庫に、幸せの時間が再び

 ホタテ漁は北海道、東北の各地で盛んですが、北海道オホーツク沿岸で漁獲されるホタテの品質は高く、大粒が多いそうです。北海道東部の別海町のホタテはとりわけ大きく、「ホタテバーガー」としてハンバーガーの人気ランキングでトップになったこともあるほどです。食べたことがありますが、通常の牛肉を料理したハンバーガーに遜色ない歯応えを覚えました。

 そのオホーツク沿岸の最北部にある猿払村は、ホタテの水揚げ量で日本トップクラス。一時期、乱獲で衰退寸前に追い込まれましたが、地元漁協の努力で「育てる漁業」に努め、日本で初めてホタテ稚貝の大規模放流に成功。漁協の徹底した管理の下で資源保護された結果、高収入をもたらすホタテ漁を実現しています。

 水揚げされたホタテは、村内の工場で干し貝柱などに加工されます。塩分濃度を調整したお湯を通して乾燥工程に移るのですが、「そのホタテを湯通しした液体は、お菓子の調味料として利用されている」と地元の金融機関の人が教えてくれました。ホタテそのものの販売にとどまらず、加工工程で生まれる「美味しいスープ」も販売する。ホタテの素材を徹底的に利用して換金化する素晴らしいアイデアに驚きました。漁業者がどんどん豊かになる。日本の水産業にとって最も大事で欠かせないことです。裕福になれば、後継者問題は解消され、水産業も発展します。もちろん、消費者の私たちは美味しい時間を楽しめます。

 今回、ホタテは家族と共に1キロを消化しました。冷凍庫にはあと1キロ残っています。幸せの時間が待っています。

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