金融政策にサプライズは不要「聞かざる、言わざる」の中央銀行は去るのみ
もちろん、サプライズです。でも、すぐに残念!情けない!の文字が浮かびました。日本銀行です。
残念!、情けない!
日銀が20日の金融政策決定会合で長期金利の上限を0・25%から0・5%へ引き上げました。2013年から始めた大規模緩和の軌道修正です。欧米の中央銀行が相次いで利上げに踏み切り、日米の金利差拡大などを理由に円安が急進。うんともすんとも動かなかった消費者物価が40年ぶりの高水準で上昇し続けているなかでも、黒田東彦総裁は利上げを否定していました。突然の政策変更に市場は驚き、ドル円は一時6円高の130円台まで進み、東証の日経平均は急落。一瞬、パニック状態に。
黒田総裁は修正の理由について、買い取り対象の10年債利回りが下がりすぎて、短期の債券より利回りが低くなる市場のゆがみが生じたと説明しています。しかし、本音は違うはずです。日米金利差の拡大で円安が予想以上に進行してしまい、輸入に依存した石油やガス、農産物が大幅に値上がりし、大規模な金融緩和を堅持する日銀に修正を求める声が高まっていました。
軌道修正は確実視されていたにもかからず
日銀の金融政策はそう遠からず軌道修正せざるを得ないと予想していました。黒田総裁が「変更はない」と明言しても、金融市場や国内の景況が急速に変わり始めており、このまま日銀が孤立してしまったら中央銀行の役割を逸脱してしまいます。
来年春には日銀総裁は変わります。新しい総裁は前任者と違った視点から金融政策を展開するでしょう。黒田総裁は任期中、自身の考えに基づいて政策を実行するとしても、後任に向けて助走路を整えておく準備はしたいと考えてもおかしくはありません。
しかし、本音を明かさずに金融政策にサプライズをもたらすことを納得するわけにはいきません。英経済誌エコノミストは「日銀は投資家に衝撃を与えた」との記事を掲載していますが、サプライズの主因はこれまで日銀が市場や国民に対し金融の現況について詳しく説明せず、市場の声にも耳を傾けていない姿勢を貫いていたからです。
日光の三猿を彷彿
日光東照宮の有名な木彫「見ざる、聞かざる、言わざる」の三猿を彷彿します。三匹の猿は「自分や他人の過ちなどを見ようとしない、聞こうとしない、言わないようにする」との意味が込められているそうですが、日本経済の守護神である日銀が目、耳、口を塞いでしまったら、おしまいです。
金融政策は経済の根幹です。お金は人間に例えれば、血流。エネルギーを体中に運び、元気に活動する力を生み出し続けます。金融政策が突然、軌道修正されれば、人間の体も反応せざるを得ません。外国為替、住宅ローン、消費者物価・・・。広がりは数えきれない。だからこそ、欧米では金融政策の先行き指針(フォワードガイダンス)を提示することで市場や国民生活の混乱を避けるのが金融社会の常識となっているのですから。
波乱の市場にほくそ笑む機関投資家も
もっとも、突然の軌道修正をほくそ笑む人はいます。金融市場の先行きを読み込み、巨額を投資するヘッジファンドなど機関投資家です。日銀の金融緩和の縮小はかならずあると確信し、債券などを空売りして大儲けしているはずです。ドルなど外国為替の預金でもヘッジファンドのような金融商品を盛んに売り込んでいる銀行がありましたから、「してやったり」と喜んでいる個人投資家もいるでしょう。今回のサプライズで今後も新たなサプライズを期待して投機的なマネーゲームが激しさを増すのかもしれません。
金融ビジネスは「騙される方が悪い」という鉄則があります。しかし、中央銀行の本来業務は、正常な金融機能を守ることです。「今度こそ先読みして儲けよう」と外国為替や債券、株式でギャンブルするような動きに拍車がかけてしまうのは全くお門違いそのものです。普通の国民を守って欲しい。
夏目漱石は「明暗」の一節を思い出して
千円札の顔である夏目漱石は最後の小説「明暗」で次のような一節を書いています。
わざわざ人の嫌がるようなことを云ったり、したりするんです。そうでもしなければ僕の存在を人に認めさせる事が出来ないんです。僕は無能です。仕方がないからせめて人に嫌われてでもみようと思うのです。
日銀の存在の重さはすべての国民が身を以て知っています。いつも素直に語り、国民と市場の声に耳を傾けください。望むのはそれだけです。