BRT は地方の未来を運べるか 人工知能による自動運転の尖頭に

 地方の生活を支える鉄道路線網の将来図を国土交通省がまとめました。2022年7月25日の有識者検討会でローカル線の運行見直しに関する提言案を示し、新しい基準を達成できない路線はBRT(バス高速輸送システム)などへの転換を促しました。過疎化や人口減などでローカル線の乗降客はどんどん減っており、大幅な赤字を理由に廃線が相次いでいます。

 生活のインフラを失うだけに沿線地域の反発は大きいですが、JR北海道を筆頭に経営基盤が大きく揺らいでいるのも事実です。国交省の提言から3日後の7月28日、JR東日本はローカル線35路線の収支状況を初めて発表、2019年度の営業赤字が合計約693億円にのぼることを明らかにしました。JRグループが本気でローカル線廃線後のシナリオを進めようとしている覚悟です。

 国交省、JRの思惑とは離れて、ここでは地方の交通インフラを最先端へ一新するチャンスと考え、代替交通機関として浮上しているBRTを利用した経験から得たヒントをお伝えしたいと思います。

 

 まずBRTをどんな交通機関か。普通の道路と区切った専用レーンを設けて、バスを運行させるシステムで、交通渋滞などを心配せずに時間通りに運行できるのが特徴です。専用道路を走るので、走行速度も安定しており、大型車や連結したバスも自在に運転できる余裕があります。英語ではバス・ラピッド・トランジット、日本語ではバス高速輸送システムと呼び、アルファベットの頭文字をとってBRTと名づけられました。

 国交省の検討会が提案したBRT転換の基準はどうか。まず1日1キロ換算の平均旅客輸送人員が1000人を切った区間。合わせてピークの時間帯で1時間当たりの乗客数が全区間で最大500人に手が届かないことも条件に加えられました。廃線ありき、あるいは存続ありきを前提にしないで、自治体か鉄道会社(JR)の要請を受ける形で国が協議会を設けて3年以内に結論を出す流れを明示しました。もし鉄道路線が存続できないとなった場合、バスやBRTへの転換を検討することになります。

 BRTは現在、JR東日本が気仙沼線と大船渡線の2線が運行されています。2011年3月の東日本大震災でJR気仙沼線は壊滅的な被害を受け、復興には多額の投資が必要なるため、BRTの導入を決定。2012年8月から気仙沼駅と柳津駅の55キロを結んで運行を開始しました。JR大船渡線は2013年3月から気仙沼と盛の44キロを結んで運行。JR東日本は2020年4月、気仙沼、大船渡両線の鉄道事業を廃止して、BRTが本格的に運行しています。

 気仙沼のBRTに乗ろうと思ったのは大船渡市長の記者会見がきっかけです。東日本大震災から10年が過ぎた2021年春、被災した自治体の首長が日時を分けて日本記者クラブの記者会見に応じました。大船渡市の戸田公明市長は震災後の復興事業に関する成果を説明する中で、BRTについて「路線を走る本数は3倍に増え、足の便は良くなっているはず」と前向きに評価しました。

 鉄道路線の廃線に対する地域の反発を全国各地で見てきました。ローカル線の多くは採算割れしています。JR気仙沼線などは震災復興として多額の資金を投じても時間がかかり、その後の経営維持が難しい。しかし、地域の思いは無視できません。雪や大雨でも鉄道の代わりにバスは定時走行できることは理解できる。廃線は仕方がないと頭でわかる。しかし、地域の絆の象徴と考える鉄道が消えることは感情的に許せない。こうした事例がほとんどです。ところが、戸田市長はBRTを前向きに評価していました。

 「今度、三陸に行ったらBRTに乗ってみよう」と心に決めました。「鉄ちゃん」ではありませんが、学生時代から全国の鉄道路線網を乗り、新聞社に入ってからも飛行機で行けるところをあえて鉄道を利用したりとかなり制覇してきました。

 しかし、BRTは未体験です。コロナ禍前までは毎年、福島から青森までの海岸線を車で北上していました。一年後に変わる気仙沼、大船渡の風景を見ながら、その変化を考えてきました。しかし、車で走り回るため、BRTは未体験。違った風景が見えるはず。

 2021年11月、気仙沼駅に立ち、BRT到着を待っていました。正直、バスが走るというのは分かっていますが、一般道と区切って専用レーンを走るのかイメージが全く湧きません。駅でBRTの停留所を見つけた後もバスが右から来るのか左かくるのか、どういう雰囲気で停留所に到着するのかすら不安です。停留所の時刻表を何度もチェックして「今か、今か」と待っていたら、バスが静かに到着していました。目的地は気仙沼市の震災遺構・伝承館がある陸前階上駅です。

 乗り降りはバスと同じです。当然です。走り出しました。両脇が区切られた道路を走り続けるので、気分はモノレールに近いのですが、街の風景は通常のバスと同じ。定期バスと違うのは、渋滞がないのです。途中、交差点など普段の道と同じ道路規制に従うような場面があるのですが、BRTルールとでも言うのでしょうか。あらかじめ決まった道路規則に従い、スムーズに走り抜けます。これが予想外といって良い感動を覚えます。

 普段は定期バスに乗っても、時刻表通りに走るかどうかどうしても心配です。BRTは鉄路はありませんが、走る区域が明確に決まっていますから、トコロテンのようにす〜っと走り抜けていきます。目的地の陸前階上駅までは定刻通りに到着しました。

 帰りの時間を決めて伝承館を見学して再び陸前階上駅に向かいます。道中20分間ぐらいですが、発車時間ぎりぎりまで周辺をうろうろ歩き回ることができました。気仙沼までの帰りの風景がびっくりするぐらい感動しました。何度も走っていた気仙沼の街の風景がクルマから見るのと大違い。コロナ禍で2年ほど足が遠のいたこともありましたが、街並みの景色が変わっています。自分で運転しなくても、スーという空気の穴を通り過ぎていくような快感をBRTから覚えます。

 妙なアイデアが思いつきました。もし人工知能を使って自動運転したらどうなるのか。走る道路レーンは決まっています。交差点などのルールも優先順位が決まっています。人工知能に周囲を判断させれば事故は起こらないでしょう。自動車の自動運転よりも突発的な障害は少ないはずです。BRTは自動運転の実現にぴったりの交通機関です。

 プログラムと周囲を見極めるカメラを適正に取り付ければ、地方の交通機関として最も早く自動運転を実現できます。全国の地方ではバスの運転手の手配すら困っている自治体をみかけます。運転手はじめ乗車券のチェックなどさまざまな諸経費をゼロにできるなら、渡りに船です。地域の生命線であるローカル線の再生を材料に未来の交通システムを構築する冒険に挑むチャンスと思えます。

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