道路両脇には雪の壁が高く

北海道・ふるさとを創る5 電気自動車と人工知能を地方創生に カーボンゼロより優先

 路線バスがある街に近づいてきた時でした。「お客さん、今日運転の経路が変わったのはご存知ですか。この大雪で排雪が遅れて道路が狭くなってしまい、バスは街中に入れないので、街中の停留所は通らずにバスターミナルに向かいますから」。

 バス車内は私とおばあちゃんの二人きり。乗車する路線バスはオホーツク海に面した北海道北東部を北上していますが、この1週間は大雪が続き、道路事情はかなり悪い状況。私の目的地はバスターミナルなので「どんな経路でも定刻通りに到着してくれるなら、ありがたい」と思い、無言でOKのサイン。

 おばあちゃんも沈黙していましたが、「困ったな」という雰囲気が伝わってきました。というのも乗り合わせたおばあちゃんはある集落の停留所から乗車したのですが、思うように歩けるわけではなさそうです。腰が良く無いせいか片手に杖、反対側の片手には手荷物を持ちながら、腰を曲げならバスのステップにやっと足をかける感じでした。車内に入っても座席にすわるまでちょっと時間が必要でした。

「大雪なので街中はバスが走らない」と運転手はアナウンス

 バスの運転手さんはバックミラーでおばあちゃんを見て、目的地は病院と察して「このバスは今日、病院のそばの停留所まで行けないの。それでも良い?」と確認します。おばあちゃんは何も言わずに座っていました。バスはそのまま発車しました。ちょっと不安を覚えました。

 2022年1月中旬、北海道のオホーツク海に面した街を路線バスを利用して旅した時の出来事です。北海道は大雪に襲われ、JRの列車は運行がストップ。道内の高速道は至るところで通行止めに追い込まれました。200万都市の札幌は例年の1.5倍も降雪し、テレビでは「連日の除雪でもうヘトヘト」といった市民の声が伝えられていました。

 オホーツク海に面した北海道の北東部も道路脇に除雪で出来上がった雪壁が積み上がっていました。早朝から夜まで除雪車が走り回り、雪壁は日に日に高さを増しているようでした。

紋別には巨大なカニの爪のオブジェ

紋別には巨大なカニの爪のオブジェ

 吹雪や強風の悪条件のなか、路線バスはがんばって走っていました。名寄から出発して下川町で乗り換え、興部のバスターミナルで待ち合わせ。興部から紋別へ向かいました。ここまでで、およそ100キロ弱。翌日、朝7時前のバスに乗って紋別から興部、雄武を経て枝幸、浜頓別とそれぞれ乗り換えながら、夕方に音威子府に到着しました。

 走行距離は約130キロ以上。2日間で合計230キロ程度です。しかし、利用した路線バスはすべて定刻通りに発着していました。北海道の除雪技術とバス会社の運行ノウハウは称賛に値します。

 北海道はかつて国鉄が網の目のように路線を張り巡らしていました。しかし、厳しい経営が続くJR北海道になってからは多くの支線が廃線に追い込まれています。北海道民はマイカーで移動するのが当たり前となっていますが、今回の大雪では地元の道路事情を知り尽くしている北海道民でも道路の寸断や雪の吹き溜りなどに悪戦苦闘を強いられていました。

 旅行者の私が路線バスでオホーツク海側の街を回ると話すと、ほとんどの人は「大丈夫?」とびっくりした顔をしました。大雪の影響で路線バスが時刻通りに走るかどうかはわかりません。「もし路線バスが立ち往生したら、どこに泊まるの?」。運良くホテルなどがある街だったら救われますが、宿泊施設が無かったら真冬の北海道を徹夜で過ごすのはとても無理。

 オホーツク海側の路線バスを利用する人は限られているようです。路線バスの行き先は「興部高校」「紋別高校」「雄武高校」など学校前が表示されていることからわかる通り、夕方は高校に通学する学生らで混み合います。それ以外の時間帯は病院に通う高齢者が数人乗り合わせる程度でした。

 冒頭のおばあちゃんもその一人です。バスに乗っていると、お客さん同士の会話で「これから札幌の病院に行くの」といった話題を何度か聞きました。札幌までは行かないまでも、バスで小一時間乗って病院に通うのが日常のようです。同乗したおばあちゃんは結局バスが病院を経由しないのに、いつも利用する最寄りの停留所に近いと思われる停留所で降車しました。

 といっても降りた場所は国道です。そこからどのくらい歩くのかわかりませんが、停留所から病院は見えません。あのおぼつかない足取りを考えたら、一人で病院に向かうのは危険ではないかと心配でした。

 路線バスは運転手さんがアナウンスした通り、街中を避けてバスターミナルに向かい始めました。確かに道路の両脇は除雪できた雪壁がそびえ立ち、バスの車幅と雪壁がかなり近く、このまま進んだら大きなバスはニッチもサッチも行かなくなる恐れがあるかもしれません。それでも、狭い道幅で右折、左折と切り返して進むバス運転手の腕前に感心するしかありません。

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