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日本列島改造論のまま

「日本はもはや大国ではない」なら目指すのは 個人の自由と豊かさを楽しむイノベーション大国はどう?

 「日本はもはや大国ではない」。財務省で財務官を務めた神田真人さんが繰り返し強調する持論です。

 日本経済の実力を肌で知る財務官として世界の中央銀行、金融機関と交渉した経験から得た結論です。ドル円相場が乱高下した2024年7月、NHKの番組で「日本に対する世界の関心が無くなっている」と吐露し、「国力を強くするしかない」と本音を明らかにしていました。

神田前財務官の持論

 再び繰り返したのは10月6日の読売新聞の記事でした。神田財務官は7月末の退官後、政府からアジア開発銀行(ADB)の総裁候補として指名されました。総裁就任は加盟国による選挙で決まりますが、読売新聞の記者が「日本の経済規模が相対的に低下していて、選挙戦になった場合厳しいのではないかという声もある」と質問しました。これに対し「日本はもはや大国ではない」と切り出します。続いて「中国の経済規模は日本の4倍で、インドにもGDPで抜かれる見通しだ。しかし、国際機関の長は経済規模で決める話ではないはずで、どれだけアジアや世界に貢献する意志と能力があるのかと言うことに尽きるだろう」と答えています。

 国の経済をGDPで比較したら、神田さんが指摘する通り、日本はあと数年後にはインドに抜かれ、かつての経済大国の威光は失せてしまうでしょう。日本経済は1990年代から30年以上に渡って経済成長は実質ゼロ。個人の年収も伸びはゼロ。GDPを人口数で換算したら、人口減少が止まらず1億人ちょっとの日本が10億人を超える中国やインドに追い抜けかれるのは掛け算をすれば誰でも分かります。

 残念なのは、現在の日本に1980年代の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の酔夢からまだ覚めず、経済大国の意識を抜け出せない人がいることです。過去の成功に甘え、大胆な変革を拒みます。だからこそ、神田さんは国の経済規模を測るGDPではなく、いかに世界で存在感を高めるかに挑む時と指摘しています。その指標として日本は1人当たりのGDPで国力を自覚し、改革の目安にすべきと提案しています。

国連の幸福度は51位

 国の経済力をランキングで比較するのは難題です。仮に1人当たりのGDPに尺度を変えたとしても「国民がどの程度、実感できているのか」を示しているとは限りません。個人が幸福と感じる時は千差万別。安定した生活が暮らせる所得は大前提としても、個人の自由、権利などが保障される社会をGDPで指標化するはなかなかできません。

 国連などが幸福度など新たな指標を設けて、国の現状をランキング化しているのは、さまざまな視点から国の力を測る試み一例に過ぎません。国連が毎年、発表している幸福度ランキングで日本は2024年で51位。主要7カ国で最下位。GDPで上位グループにある日本はすでに幸福な社会のランキングで急降下しています。近未来の先取りと受け止めたくありません。フィンランド、デンマーク、スウェーデンなど北欧諸国が占める上位グループがどんどん遠い存在になっていくのは寂しい。

 ノーベル賞の発表が始まることもあって発想を変えてイノベーションはどうでしょうか。英エコノミスト紙が最近、世界で最も革新的な国について特集しています。革新的な国というと分かりにくいですが、英語の「イノベーション」を意味しています。世界知的所有権機関(WIPO)が発表したグローバル・イノベーション指標を参考に解説しており、この指標は特許権、科学論文、先端技術の製品輸出、研究開発投資、工学部など理系学生数、ベンチャー投資などを数値化して、算出しています。

イノベーション1位はスイス

 この指標によると、調査対象133カ国のうち世界で最も優れたイノベーションの成果を上げているのはスイスでした。米国でも中国でもありません。指標の算出が人口数の大小に依らず、国民1人当たりに換算してイノベーション効率の優劣を測るため、スイスが躍り出て来た印象です。ちなみに順位は第2位がスウェーデンで、以下は米国、シンガポール、英国と続き、中国は11位。日本は10〜20位の第2グループに位置しています。

  日本は人口減少が続き、基幹産業の自動車なども脱炭素に向けた構造改革が迫られています。人工知能(AI)など次代の経済をリードする最先端技術では出遅れ、活力を呼び戻すベンチャー育成も成果を出せていません。「もはや大国ではない」地位に立つ日本は、何かしらの改革を始めなければこのままずるずると国の活力を失い、幸福度はさらに低下するでしょう。

 ノーベル賞受賞者を数多く輩出している日本人がイノベーションに不得意なわけがありません。変革を拒む大国を意識を捨てて、目の前の常識をぶち破ることを楽しむ社会は、手が届くところにあります。個人が豊かに暮らし、自由な発想で非常識なことに挑む。失敗を笑い、成功も笑う。躊躇せず一歩踏み出せば、日本は次に前進することできます。幸福度、イノベーションでトップに立つ日は夢ではありません。

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