維新・国民「都市住民の協力」で原発延長法案に賛成 都市住民は今、何を協力するのか
「原発活用のために、電力消費地の都市住民の協力を得る必要性」。与野党で賛成多数決したキーワードです。
原発政策は180度転換
2023年5月30日、「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」が参院本会議で可決され、成立しました。原子力発電所の運転は原則40年とされ、最長でも60年が目処としていましたが、この法律で60年を超えて運転できるようなりました。2011年3月の東日本大震災で発生した東京電力福島第一原発事故以降、原発の新増設・再稼働は厳しく制限されていましたが、原発政策は180度転換しました。
岸田首相は自らの政権で原発政策を大転換させたイメージを薄めるため、自民・公明の与党だけでGX脱炭素電源法案を多数決せず、日本維新の会、国民民主党の取り込みに見事成功しました。そのキーワードが「原発活用のために、電力消費地の都市住民の協力を得る必要性」でした。
与野党多数決は国民の総意を示すが・・
なぜ維新と国民の両党はこのキーワードの挿入で賛成することにしたのでしょう?改めてネット検索してみました。まず日本維新の会。「維新の会 原発政策 都市住民の協力」の3ワードで検索して登場したのは、新聞記事などがほとんどで、維新の会関連は「政策提言 維新八策」。
維新のHPから維新八策をクリックして「エネルギー政策」を読みました。福島第一原発事故を中心に提言しています。放射性廃棄物、汚染水など収束策、再稼働、福島など立地地域との対話など13項目に渡って重要な指摘、提言を公表していますが、その文脈から「都市住民がどのような協力をするのか」を読み取ることができませんでした。政調会長の音喜多駿さんが積極的に情報発信していますのでネットで検索しましたが、原発に関するコメントは多数あるものの、私の力不足もあって「都市住民の協力」に対する意見は見つけることができませんでした。
国民民主党はどうでしょうか。同様にネット検索し、ふさわしいと思ったのが「政府の新たな原子力政策について(談話)」。同党のエネルギー調査会長の浅野哲さんのコメントです。2022年12月23日に発表しています。次世代革新炉など選挙公約と整合する点などを評価したほか、原発事故後の対応のなかで運転期間延長について触れ、「国民から十分な理解を得ることが必要不可欠」と続けています。「都市住民の協力」を示唆するくだりを探しましたが、ふさわしいと思われるのは「幅広い国民との丁寧な対話を重視し、現実的なエネルギー政策を構築していく」でしょうか。
維新・国民は説明を
維新も国民もGX法案可決後、ネット上では追加挿入した「都市住民の協力」についてのコメントを見つけることができませんでした。
日本の原発政策が大きく転換する法律を与党単独で押し切るのではなく、野党も賛成して可決するのは、日本国民の総意を示すうえでとても良いことです。ただ、維新と国民はなぜ都市住民の協力を加えたのか。その理由を知りたいです。この文言が背負う意味がとても重要だからです。
日本の原発政策は福島県や新潟県、福井県など大都市圏から離れた地方に原発を建設して、首都圏や関西圏などに電力を送る構図で進められてきました。広大な用地や冷却水など自然条件のほか、建設する地域の雇用など地域経済の活性化などが背景にありました。
地方の電力を都市圏に送るのは限界
しかし、福島第一原発事故は、大都市圏が地方から電気を送ってもらう構図は、もう立ち行かないことを国民全体に教えたのです。福島県民が払った犠牲の大きさは説明不要でしょう。原発に対する安全性は、原子力規制委員会などの努力もありますが、東電など電力会社の不祥事が続き、運転安全性などを含めて現在も不安は消えていません。
首都圏や関西圏など大都市の住民は、今後も原発から電気を送ってもらうためには、何を考え、どう対応するのか。改めて肝に銘じる時です。「電力不足や脱炭素なんだから、原発を稼働させれば良いじゃない」という意見を見かけますが、「それなら東京湾に原発を建設したら」という古くから言われる揶揄を再現させるだけです。なぜ地方が犠牲にならなければいけないのか。「日本経済のため」はすでに高度経済成長期を謳歌した昭和の遺物です。
60年超を都市住民は納得できるの?
それよりも、60年超の運転延長を都市住民は「あっ、そうですか」と素直に受け止められるのでしょうか。原発は増え始めた1970年代から、運転は原則40年という前提で建設され、ちゃんと監視すれば60年超も大丈夫というお墨付けをもらいました。建物など補強されていますが、肝心の原子炉や格納容器などに新技術が導入されていないにもかかわらず、20年超も延びるのです。不思議です。
維新や国民が「都市住民の協力」を加えた意図はわかりません。しかし、図らずも「原発を活用するために都市住民の協力を得る」好機です。
電力を消費する地域の住民が、その電力がどのように生まれたかを知り、その貴重な電気をどう使えば良いのか。安直に原発再稼働を連呼する前に、脱炭素やエネルギー高騰という目の前の難題にどう向き合うのか。原発のみならず再生可能エネルギー、天然ガスなど資源利用をどう考え、自分たちの生活を維持するのか。電力を大量に消費する都市住民のライフスタイルも含めて再考するきっかけになります。それが日本経済を活性化し、脱炭素へ加速するエネルギーに昇華するのです。
銀座に「明るい未来のエネルギー」の看板を
原発事故を直撃された福島県双葉町には「原子力 明るい未来のエネルギー」と書かれた大きな看板が駅前商店街の大通りに掲げられていました。今、その看板は東日本震災・原子力災害伝承館で津波で押し潰された消防車の後ろに置かれています。福島県で生まれた電力は首都圏の繁栄を生み、支えてきました。60年超の運転可能になったのを機会に、都市住民は自らの明るい未来を築くエネルギーを考え、東京・銀座に看板を掲げるぐらいの覚悟が求められています。