北見市は課題先進地 産地消滅、市役所のDX、人手不足、明日がすぐそこに見える

 時々、日本の明日が北海道の北見市に投射されていると思える瞬間があります。地域の特産品が消え、地方財政の逼迫で市役所が建設できない。そして深刻な人手不足。しかし、傍目から見れば遠回りに映るかもしれませんが、北見市民の皆さんは自分の地域に適した解を捻り出します。まるで日本の各自治体が直面する課題を先取りして、明日への道筋を示す役割を担っているのでしょうか。

人口減は外国人労働者で補えず

 北見市のリゾート施設が人手不足で事業を再開できないそうです。8月2日付の北海道新聞は、北見市のリゾート施設「ノーザンアークリゾート」がスタッフ確保に目処がたたず、再開できないと伝えています。経営不振に喘いでいた同施設は2024年3月末に営業を終えましたが、海外でゴルフ場を経営する韓国SGグループが買収し、付設するゴルフ場の再開を計画しているそうです。

 ノーザンアークリゾートは16年前の2008年にも経営不振から韓国企業へ買収され、ホテルとゴルフ場、スキー場、日帰り温泉施設を運営してきました。しかし、コロナ禍による売り上げ低迷により営業継続を断念し、今度はSGグループに売却しました。SGグループは北海道の北広島市でゴルフ場を運営しており、海外からの観光客増に沸く北海道の拠点拡充を考えていたのでしょう。ただ、北見市は市内のホテルや飲食店でも人手不足が深刻で、再開に必要な30人程度が確保できていないそうです。

 同施設は経営の先行き不安などもあってスタッフ募集が進まない事情もあると推察しますが、全国を見渡すと人手不足のニュースが飛び交っています。栃木県の那須高原のリゾートでは時給2500円でスタッフを確保したニュースが流れていましたが、北海道でも海外旅行客が集まっているニセコなど人気リゾートで2000円を超える時給だそうです。北見市の施設の例は極端とはいえ、人手が確保できず事業継続に苦労する企業は増えるはずです。

 日本の人口動態を考えたら、深刻な人手不足は当然です。少子高齢化に歯止めが効かず、18歳から65歳までの生産年齢人口はほぼ30年前の1995年の8716万人をピークに減り続けており、2023年は7400万人と1300万人も減少しています。代わって外国人労働者が増加していますが、2023年末で205万人。10%台で増えているとはいえ、単純計算で差し引きしても全然、間に合わないのがわかります。

ハッカで世界シェア7割を握ったことも

 実は、北見市は日本が直面する課題を先取りする”先進地”です。例えば、地域特産品の消滅。

 北見市は今でこそタマネギ日本一を誇っていますが、1930年代はハッカの生産地として世界シェアの70%を占め、豊かな農水産物の資源に恵まれたオホーツク沿岸の繁栄を支えてきました。北見市の記念館などを訪ねると、当時の様子を体感できます。しかし、ハッカの生産が安価な海外産や化学反応を利用した合成ハッカに取って代わられ、今ではお土産品や身の回り品などおしゃれな特産品として「北見ブランド」を発信しています。 

 ここ数年、地球温暖化の影響で海水温度が上昇し、漁獲する魚種が大きく変動しています。イカの名産地で知られる函館市はイカが全く不漁となり、代わりに富山県の氷見が主産地として知られるブリが大漁となっています。鮭、サバ、アジ、サンマなど日本の食卓に必ずといって良い魚が手に入りにくくなっています。函館市は名産品をイカからブリへ切り替えるそうですが、とても笑えるエピソードでありません。ハッカで極めた栄光に溺れず、タマネギなど新たな産地形成に成功した北見市の姿勢は学ぶに値します。

 行政のデジタル化でも先駆です。北見市は2009年から証明の申請書や住民移動の届出書などを書かずにワンストップですべてを済ますことができる業務改革に取り組み、実現しています。「書かない窓口」を体感するため、全国から視察が絶えません。

 仕組みをサクッと説明します。市役所の窓口職員は、まず申請や届出などで訪れた来庁者から本人確認書類の提示などを受けます。続いて、確認書類の情報から対象者を検索し、来庁者が求める証明書や届出書をパソコンで一緒に作成します。市庁舎内をあちこち歩き回ることもなく、来庁者の手間も時間も削減でき、合わせて市職員の業務作業量も減少できる一石二鳥のサービスとなっています。

行政のデジタルで先駆

 北見市が取り組みを開始した2010年ごろ、窓口業務を体感したことがあります。当時の北見市は市庁舎の建て替え問題が市長選で大きなテーマとなり、選挙後も紛糾し続けました。建て替えるといっても、巨額の予算が必要。地方自治体の多くは厳しい財政状況に苦しんでいます。北見市は二転三転して結局、2011年には老朽化した旧市庁舎が解体され、仮庁舎が10カ所程度に分散して市の業務を維持しました。

 「市民にとっての利便性が低下するのでは」と疑問視する声も聞きましたが、北見駅前のスーパーが入居するビルに間借りしたこともあって「買い物ついでに手続きができる」「バスターミナルの待ち時間を利用できる」などの声が圧倒、一時は「このまま市庁舎は不要じゃない?」といった意見すら出てきました。岸田首相が唱える「令和版行財政改革」は北見市の後追いに過ぎません。

 北見は人口11万人、漸減しています。北海道全体でも札幌市以外は急速な人口減に見舞われています。もう止められないでしょう。地域経済の縮小は避けられず、これに伴い地方財政も緊縮します。「カネもヒトも不足」。多くの地方自治体の目の前に立ちはだかる難問です。しかし、知恵は無限です。努力も尽きません。

元気が湧く街です

 北見市の街を歩くと、なんか元気が湧きます。オホーツクやサロマ湖から得られる魚介類はもちろん、焼肉、クラフトビールなど美味しい特産品があちこちに。日本のカーリングの聖地、常呂町も今は北見市となりました。美幌峠の美しい風景には魅了されますよ。突然、美空ひばりの歌が聞こえてくる碑には驚かされますが・・・。自分たちの街づくりに悩んだら、一度訪れてみたらどうでしょうか。

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