NHK プロ野球 財界「誰も異論がない」前例踏襲の人事が日本を変えない

 日本を代表する組織のトップ人事を見ていると、なぜ日本が変革できないのかがわかってきた気がします。昭和、平成、令和と3つの元号を経たにもかかわらず、日本の価値基準は高度成長期に酔った”昭和の成功体験”を忘れられません。ずるずると沈下し続ける日本経済への危機感が広がらないのも当然です。

NHKの会長は2008年以降 企業トップ経営者

 NHKの会長人事が決まりました。稲葉延雄さん。72歳。2023年1月25日、前田伸晃さんの後継として就任します。日本銀行の理事を務めた後、リコーに特別顧問として入り、取締役会議長などを経験しています。稲葉さんは記者会見で「公共放送として国民の信頼を得るため、質の高い番組を作る人たちが使命感に基づいて制作に専念できる環境や組織を作っていきたい」と述べるとともに、日銀時代を振り返って「不偏不党や公正公平な報道をするNHK」に対し親近感を覚えながらも、NHKも在籍していたリコーなど民間企業と同様に、技術革新に合わせた組織改革が必要との考えを示しています。

 NHKの会長は2008年以降、アサヒビール、JR東海、三井物産、三菱商事、みずほフィナンシャルグループと企業トップ経験者が歴任しています。今回もNHK以外ですが、リコーを経ているとはいえ本籍は日銀。決定寸前に前田氏の後継として丸紅の名前が飛び交い、結果は日銀出身というのはきっと偶然なのでしょうが、インターネットや有料配信など激動期に突入しているメディア産業とはかなり縁遠い分野からの登用です。

 会長人事はNHK経営委員会が選考しますが、過去を振り返るまでもなく首相官邸の意向が反映します。読売新聞によると、日銀と民間企業を経験していることが、公共放送であるNHKの改革を進める上で「バランス感覚がある」と首相周辺は評したそうです。

NHKはメディア激動期のカギを握る

 NHKを取り巻く経営環境は激変しています。公共放送として受信料という名目で視聴者から徴収していますが、ビジネスモデルは有料放送。ケーブルテレビやネットフリックスなどネット配信会社と同じです。日本テレビなど地上波や衛星を通じてコンテンツを流す民放も広告収入以外に独自に有料ネット配信を展開しています。ユーチューブやTikTokなど若者から絶大なる信頼を得ているネットメディアは、テレビを凌ぐ影響力を持ち始めています。

 新聞、テレビ、ネットといったメディアの構図はすでに過去のものであり、文字と動画、音などが渾然一体となって近未来のメディアを創り上げる時代に突入しています。その中でNHKは公共放送としての立場を守りながら、日本最大の有料放送としてインターネットの活用を拡大しています。NHKの経営戦略がどう展開されるか。日本のメディアがどう生き延びるのか、あるいは息絶えるのかが決まります。

 その激動期の中で今回のトップ人事はふさわしいのか。稲葉さんはリコー時代にデジタルを勉強としているとはいえ、直近のメディア事情についてはこれから習得するはずです。当然ながら、前田会長時代に敷いた改革路線が目の前にあり、そこから新会長をサポートするスタッフが支えるのでしょうが、会長就任当初は前例踏襲を繰り返し、それから前田会長のように銀行時代の経験を生かした改革を断行するのか。失礼ながら、デジタルメディアの時間軸はそんなにのんびりしていません。わき道にそれますが、前田会長がトップを務めたみずほが立て続けに失策を繰り返す現況を振り返れば、NHKの経営改革にふさわしい人材だったのか疑問です。

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