賃金はなぜ上がらないのか 満額回答が最後通告 さよなら春闘 さよなら労組
トヨタは社長が回答、満額の流れが広がる
主要企業による満額回答の続出も奇妙です。春闘相場を主導するトヨタ自動車が春闘の一斉回答日の3月16日より1週間も早い9日に満額回答する方針を明らかにしています。春闘交渉は経営側は労務担当役員が賃金回答を組合側に伝えるのが慣例です。まあ、こうした「しきたり」にこだわることは無意味です。
見逃したくないのは労組の側の対応です。労務担当役員が労組と対峙するのは、経営側と労組が忌憚なく話し合うのが主目的だからです。社長は決定者です。最近の例で見れば、ロシアとウクライナ の停戦交渉を思い浮かべてください。プーチン大統領とゼンレンスキー大統領が直接会って交渉し決裂してしまったら、もう停戦の可能性が消えてしまいます。
今回は社長や労務担当役員が記者の前で早々と満額回答する方針を表明しています。労組は賃上げ、一時金(ボーナス)に対して満額回答ですから受け入れるしかありません。もっとも、トヨタは賃上げ率は公表していません。早々と満額公表しているにもかかわらず、詳細を明らかにしない理由がよくわかりません。
旗振り役のトヨタが満額回答するのですから日産自動車やホンダなどが追随するように満額回答します。電機でも日立製作所や東芝も満額回答の列に並びます。会社の未来がどうなるのかわからない東芝すら満額回答です。会社分割で揺れている最中にどんな根拠で算定したのか知りたいです。
その他の大手企業は満額とまではいかないまでも、日本製鉄が3%の賃上げを回答するなどここ数年に比べて高い水準が目立ちます。岸田首相が求めた3%を横目でにらみながら、回答水準が固まったのは間違いありせん。安倍政権が続く官製春闘が再現され、もう定着した表れと見て良いでしょう。
主要企業のよる満額回答と官製春闘の踏襲は何を語っているのか。それはもう春闘の終焉です。政府と主要企業が足並みをそろえて賃上げの流れを作り、労組の意見を丸飲みする形で回答する。会社勤めの人間にとって給与がどこまで引き上げるかは最大の関心事です。
それが労組のチカラで勝ち取る舞台がきれいさっぱりと消え失せてしまったのです。労組そのものの存在意義がこれまで以上に感じられなくなり、ただでさえ低下している労組の組織率は低下するのでしょう。
賃金そのものへの関心が低くなっている?
もし賃上げ決定の流れがこのまま続くとしたら、「もっと年収が欲しい」「賃金を引き上げて欲しい」という声はどこに向かうのか。企業別労組の枠組みを超えた組織が受け皿として育つのかもしれません。政治の世界を見ても、政党が受け皿として期待できるのでしょうか。
ウクライナ 侵攻など激変する世界情勢の陰で、日本の賃上げは静かに行われ決定していきます。日本の年収が底上げするエネルギーは充満せず、はけ口に噴出するかもしれません。
世界の物価、日本の物価は上昇し始めています。米国のFRBは3月16日、3年ぶりにFF金利の誘導目標を0・25%引き上げることを決めました。インフレ過熱を防止するのが目的です。日本の実質賃金が一段と下がりる経済状況が待ち構えています。「もっと賃金に関心を持とう」というキャンペーンが必要なっている思いが募ります。